おばすてやま

おばすてやま
となりのおばちゃんが姨捨山に捨てられてしもうたんやって。
そういえば夜中に実娘と婿養子に虐待受けて叫びよったもんなぁ。
それにあそこのおじさんんももうアカンやろ。
脳梗塞で金ばかり使う厄介者やって。
全く怖い世の中になったもんやなぁ。
食卓でしみじみと健康の有り難さを
囃し立てる父母たちの他人事は
母の膝関節の激痛と
父の手遅れの肝炎を笑っていた
昔 熱を出せば
苺がほしいと泣いた娘に
なんとかして苺を真冬に手に入れてきた母
難病とあらば祈祷まで頼んだ父
独りで何でも出来るようになった娘を
鏡が映したのは
荒れ狂う逆髪ボサボサに 髭を生やした山姥が
姨捨山の入場料金を風呂に入る前に銭勘定していた
とは知らない両親
慈悲喜捨の四無量心の「捨」が流行過の時代
姨捨山は 今日も満員御礼
姨捨山で 今日もコロリ

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月のアリス

「月のアリス」
喪服のアリスは歌う
君だけの黒レースの下に隠した
レクイエム
(チェシャ猫は夜遊びのし過ぎでハートのクィーンにギロチン刑)
アリスは探す
時間ばかりを気にするウサギ
追いかけて
ナイフで滅多刺し
(これで時間を気にせずに楽に笑って)
硝子がアリスを写し出すと
喪服のアリスは透明に写る
金髪は白銀に肌は陶磁器に
(鏡は嫌いよ!嘘ばかり!だから魔女が好むのよ)
月のアリスはワガママで
星のアリスを探してる
(一緒に読もうよ、マザーグース、貴女の為に鮮血を一滴残らず飲み干すわ)
貴女の為の舞踏会
今夜もまた、地上に時計仕掛けのウサギたち
夜遊び上手なウサギたち
ハートの女王のいいなりに
チェシャ猫は野良猫のうめき声
生死のゲームを
満更に
可笑しすぎて笑うアリスは
地上をみては
大笑い
私はここよと
大笑い
泣いて見ていたのは
星のアリス
私はここよと
夜を終わらせる
(ねぇ、私たち同じ血でできてるわ)
星のアリスの中に月のアリス
ひとり救えば
ひとり死ぬ
天使のかんばせに
ご注意を

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手帳

手帳
その方は通勤電車で
同時刻にいつも
乗り合わせる男性でした
メモ帳をお借りできますか
と言われたのですが
生憎メモ帳は持ちあわせていませんでした
全く知らない方でもないし
いつも会えるのだからと
仕方なく
私は手帳をお貸ししました
さっき買ったばかりです
まだ白紙です
これをあなたにお貸ししますから
今度会うときお返しください
と 言ったのに
あなたは手帳の一番始めのページを
キスマークだらけにして
汚してしまった
間のページは私の裸像画の散乱
最終ページに
あなたの捺印
 
私は栞をはさんで
「謹呈 私の全て」
と 書いた

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赤い部屋

赤い部屋
微睡むことさえ赦されない
赤い電灯の下で
君の舌を引きづりだし
僕は口腔から僕を入れる
開かれた四肢は朱に染まり
君の中の僕が脈打つ
キャミソールドレスから
爪先から
唇から
肌から
はだけられ
晒された全てから
鼓動が脈打ち
君はピアノの鍵盤の響きに合わせて
流動体の赤血球を泳ぐ
蛇の館に一人
囲まれたカナリアは
泣き顔は見せず歌うだけ
湿ったのは這わせた指先ではなく
遠い雨の日の赤紫のアイリスの芯
誘ったのは君
暴きだしたのは僕
二人が赦していたのは
欺瞞と虚飾の愛の調べ
だから火を点けないで
薄闇の天井に
ポツリ酸素を請う
赤い電球の色彩のままで
独りぼっちの
暮れない夜の
過ちの朱印
文字のない部屋
空っぽの鳥籠
安らかな黒い柩
赤い孤独が滲む部屋

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傷口から媚薬

傷口から媚薬
躊躇い傷 隠していた
汚れた包帯をひんむいて
いっそうのこと
傷口に煙草の火を
押し付けて
本当の哀しみの痛さと
熱を教えて欲しい
今夜のバーの
サックスの音色は
胸に滲むから
煙を吹き掛けて
曇らせた
バーテンダーは機械仕掛けの昔のあなた
タイムスリップして
ストリップした私の胸元に
テキーラを流し込んで
これが今夜の代金引換だよと
にやつきながら
一緒に踊って欲しい
あなたのリズムで
私は踊る
くねる
歪み喘ぐ
喪失する楽園から
覚醒した朝
腕枕の固さの代賞に
ひとこと
「女」
と呼んで欲しい
私は、あなたのの鋭い声と
目線が好きで
あなたの胸に口紅で
赤い蝶を描く
汚したシーツ
泳ぎ着かれて果てた
野良犬たち
叱るように愛して
石榴を割って
突き上げて
傷口から始まるロマンス
約束の海
潮の薫りが満ちる部屋

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灯す

灯す
月が空にひとつぽつんとしかない嫉妬に
青い火ひとつ
潮が渦を巻くくらいの感情の高浪に
赤い火ひとつ
四葉のクローバーを見つけても
三葉にしてしまう天の邪鬼に
緑の火ひとつ
生きているのは
何処かに産み捨てた人いる十字架に
金の火ひとつ
誰しもそれぞれが背負う
街並みの灯りと路地裏の陰
歩いてゆく
歩いてゆく
ひとりにひとつづつ
呪い
ひとりにひとつづつ
故郷
泣いてしまえ
スマートなスーツも
ブランドのストッキングも脱ぎ散らして
ひとりに一箱つづつ
分け与えられた
マッチの火を
今夜だけ点けながら
マッチ箱が
空になるまで
コトバを交わす

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惜春

惜春
シーツの海に住み着いた赤い蝶が
羽化したサナギを嘲笑い
自由に飛んでいく頃
海辺で泣いていたのは
溺れた人魚
帰れないお伽噺に
還りたい
アスファルトにアカイハナ
が咲くと
潮風の匂いが異国の涙を
誘うだろう
アカイハナに赤い蝶
潮騒には裸脚
同じゆらめきの果てに
楽園と廃園の鍵は
差し込まれて
血を流しながら闊歩する女の
渦を巻く激しさに染まる街
たまゆらの音色に委ねた
ピアノの旋律のさざ波
ゆれる
ゆれる
ゆすられる
楽園は近々廃園に
戻ることを
知るだろう

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監禁

監禁
誘っても 拒む少女の 夏のドア 開け放ったまま 消える足跡
うたいだし 「ここにおいでよ」 の優しさが いつの間にか 身を裂く稲妻
夕立にうたれて 二人滑らせる 汗と蜜と甘い舌
屋敷には 黒い部屋に 君は明日 手錠をされて 啼いて悦ぶ
叫んでも すがってみても 僕はまだ 赦さないよ 赦さないよ
君の汗 君の涙を吸った 部屋 君はまたくる 嵐の夜に
呼んでるよ 君の味見を知る畳 自ら曝せ 珠露の肌
自ずから 君が抱かれた その屋敷 私は名付けた 君の鳥籠

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瑠璃色の彼方に

瑠璃色の彼方に
瑠璃色の彼方に
僕が覗きこんだ世界は
モノクロに覆われて
大地は眠りにつこうと
終演の幕を下ろし始めた
飛び出した頭の高さだけ
ぶきっちょな僕は
シナリオにない演出を
西の空に描きながら
見果てぬ夢物語を
水彩色鉛筆を使って
涙で滲ませた

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クロスロード

クロスロード
頬に涙を流し
缶ビール二杯じゃ酔えない
恋にこだわり続けました
骨になってゆく
僕らの想い出は美しいまま
明日の廃品回収のゴミ袋に
捨てられます
貴女にはしたいことが
塵のようにつもり
僕はやりたいことを
シュレッダーにはかけれない
色褪せた明日は
透明な未来に続くのでしょうか
光射す窓辺
白いカーテンの朝の熱風
朝顔柄の紺の浴衣に
お水をこくりと飲み干す
貴女の喉越しに
僕は何味でしがみついているのですか
きっちり髪を切ったはずなのに
「貴女の為に生きたい」

そんな黒髪の子供が駄駄をこねた言葉を
撫でながら
また
未来像に缶ビール二杯で
酔える夢を
貴女の頭のつむじ風が
教えてくれそうです
今度のクロスロードで
お互い独り歩きをしていたなら
さよならのない
一本道に二人の影をおとしてみませんか
決して冷めない
缶ビール二杯で
酔える
恋と夢と
語り継がれるような
お伽噺を

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