橋の上

橋の上から下を見る人、上る人と下る人
いちにち、は時計どおりに進むが
いちにち、を今から始める人と終えた人が
橋を境に上下する
お疲れ様に向かう白や黒に乗車した人と
夜が戦場だとピンヒールで纏め上がった
黒いベロアのロングコートと赤すぎる唇たちと ── 。
いちにち、の行方も知らず、
突き進む人と尻込みする人、そのあわいで
シフトの調整メモとタイムカードが記憶する濃いインク
クリスマスソングに踊らされながら 動く人と休む人
橋の上で下を見つめる人と 下から上を見つめる人と
いのちは同じでも いちにち、は其々にたそがれていく
マスクは夜をたどる人の口を塞いでいく
目に見えるものが全てではない事はすでに語られていて
いちにち、について全てを語れる人もいない
時計回りの時間とわたしが途方に暮れている
橋の上から飛び込めば何もかも止めることができる、
かもしれない、など 頭をよぎって背中を笑う
橋に居並ぶたくさんのわたしが背後に押し寄せていて
下を見ながら楽になりたいと舵取りにつかれ
バランスを崩し 足を左に踏み外す
踏み外した足、より速く
止まらない救急車に乗せられ
いのちを病院で逆走させようと
いちにち、の行方をおしはかる
いのちを計ろうとして 失敗した腕時計は外され
マスクの必要もなくなった わたしが
何か言いたげな目を上に向けたまま
閉めることができない口を ポカンとあけて
橋の上を歩いていく 
*「詩と思想3月号掲載原稿」

カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。