桔梗

桔梗
廃屋に
今年も 紫の桔梗が
二輪咲く
植えた女主人は
介護疲れで井戸の中
花弁の輪郭に
思い出をなぞると
過去の笑顔に
辿り着く
砂の城に住んでいた
光の中の男と女
夢のような時間
咲き乱れた想い
疲れはてた花は
色褪せた水中花
まだ 息をしている
植物のような貴方を残して
殺害するより
自殺した
女主人の寂れた王国に
今年も二輪の
桔梗が寄り添う
指で押すと
パチンと蕾は泣いた
叫んだように
裂けて
壊れた

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くれる

くれる
くれる写真
うなだれた向日葵のように
へそを曲げて点かない街灯
どんなに走っても
追いつけない虹の国
アスファルトの向こう側くらいには
頬を染めて待っているから
落書きのような
曖昧な恋の約束を抱いて
思い出に追いつけないまま
色褪せた
今日が暮れゆく

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廃墟と涙

「廃墟と涙」
彩(あざやかな)世界を見上げ叫んでる空哀しみの観覧車箱
秘密だよだれも秘密の基地だから独りの皇子にひとつの王国
みつけない見つからないの憎しみは壊れた瓶に埋もれたまま
さようなら割れた硝子を曇らせた貴方の眉間と出せない言葉
置き去りに忘れ去られた赤い椅子 主は帰らず褪せた思い出
ここなのよここにあったの学校が宅地で笑う知らない家族
図書館の本ひとつを探すならきっとあそこのチェルノブイリ
ハトロン紙かけて扱う恋人は自分の爪も透明なまま
くたびれたパイプオルガンが引き鳴らすアトランティスのレクイエム奏

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終焉の子守歌

終焉の子守歌
終焉の子守歌
夕暮れを
暗黒の腕が掴もうとして
色彩が地平線の彼方から
あっかんべえをする
此処までおいで
傲慢と虚飾に満ちた
地球の裏側を裏返せるのは
一枚の瑠璃色の夢
切り取られた
シャッターのワガママ
こっちへおいで
遠い千夜一夜のの
子守歌を教えてあげるから
今は薄く照らされて
世界の終焉に
恋い焦がれ
泣いたらいい

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夜想曲

夜想曲
敷き詰められた
闇色の絨毯に
あたしは
カラダを
沈めて
涙のような
桜の花弁に
埋もれるのを
待っているの
きれいな夢が
みたいなら
ここで
造られた関節の
向こう側の
黄泉(くに)へ
壊れた魂(こころ)ごと
連れ去ってください
ナイチンゲールが
死んだ
赤い月夜
あたしは眠り続ける
渦を巻く花弁を形見に
どうか
どうか
この夢路を赦したまえ

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桜想

「桜想」
私は着飾る
シルクの黒いドレスと
鎖骨に煌めくガーネット
そして貴方の視線で
私は顕現する
私は慕う
この一輪の桜草を
くださった貴方に
髪を乱し
花の香に酔う
夢 夢に在らず
花 存らえど
恋 心通わず
ただ
桜草一輪に
貴方を重ね
一夜に身を委ねても
お慕い申しております
物想え
薄紅色の小さな星ぼし
私の高鳴る鼓動のままに
夏の空を駆け抜けた
淡い流星
桜星
されど消えゆく私の初恋
届かぬ雫を珠にして
貫いたのは貴方御自身
花びらの降る夜
静寂にため息
桜草を抱いて
恋に沈む

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渇き

渇き
鼻水と痰が
喉に流れ続け
夜中に目覚めれば
あの人は
フィラリアに侵された咳を
静寂に響かせながら
私を責める
もう一人は血統書付きのパグ犬
散歩をねだる声は掠れて
身体を横たえて
垂れ流し
犬は命が行き詰まり
金で命を量ります
餓えた涙声を聞き取ります
熱と汗に苛まれる夜から
逃れるように
食べ物を漁ると
ラッピングされた骨が
空っぽのはずの冷蔵庫から
徐々に崩れていきます
風邪薬が餌のように
見えた秘密
知っていたのは
アオミドロ色の
ペットポトル
私たち全員
仲良く死にます
お願いですから
どうか
お水を 一杯
ください
死ぬ前とその後に

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されど愛しき日々

されど愛しき日々
朝寝坊 昼間は女房 夜は猫 貴女の狂態が 瞼を焦がして
月明かり 暴かれた肌 盃に 私は奏でた 貴女の音符
黒髪は 貴女の為にのばしたの その一途さが 指に絡んで
マンゴーの 味付けパンで塗り付けた 君は私が作った御菓子
全部みせて 全部聴かせて 哭いてみて 征服された女の器
甘い酒 ねだる猫の目 玉虫に 潤んでいたのは 瞳と秘蜜
愛してる 何度も何度も繰り返す 僕の声は壊れたデッキ
君に痣 青紫に 噛みついた 僕は月夜のアオイケダモノ
優しさで くるんだような 独り占め 足枷の名はピンクのテディキュア
ライチ酒にオレンジ割りもいいわよと 見つめていたのは小さな黒猫
指先に 貴女の感触が 絡み付き 動けないまま 風の吹く夜

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双六ゲーム

双六ゲーム
人生ゲームのサイコロは
気まぐれ気分屋の裏表
一進一退が一心一体
一石二鳥の好都合
三歩進んで二歩下がる
罰ゲーム
仏の顔も三度まで
出た目
出た目
デタラメ人生
私はあなたにはに抱かれて
蝶になる?
いや丁半出揃いました
姉御肌
野球賭博に猪鹿鳥の言いなりに
金は天下の回りもの
一時休憩が一時求刑
網走刑務所脱獄不可能
叶 姉妹がやってきて
金と色気で貴方を飼い殺し
サンPースの楽園で、
今度こそはのゴールイン
サイコロに踊らされても
デタラメに
できない
酒と女と男と涙
飲みすぎたのは
貴方のせいよ
弱い女の強がりを
抱き締める為に
歌うのは
男と女のラブゲーム
ふたりの行く先はぁ〜ホテルぅ〜♪
そこで、
女はスタートして
男はゴールし終わらせた

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晩夏を逝く

晩夏を逝く
名も知らぬ街の
商店街の小料理屋の階段に
仰向けの飛べない蝉 一匹
頼る身ないらしく
もがく足に
人差し指を絡ませたのは
多分
私の気紛れ
お節介と寂しさの狭間
蝉は指に絡み付き
強く指を刺して
みつからな蜜のかわりに
強く強く指を噛む
路地裏に樹はない
ましてお前
最期の力強さ
人間に反旗を翻す
もう啼けないお前を
コンクリートの
樹にみまごう黒塗りの
看板に見捨てた私を
その玉虫色の瞳が閉じるまで
恨んで私の逝く人生に
来年
偽物の森で会おう
できれば
命がけの恋の仕方など
教えてくれれば
私は
人差し指分
救われるだろう
なぁ、お前
蝉時雨の啼く森で
一緒に泣こうか
叫ぼうか

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