調律

調律

曲がりくねったト音記号を筆頭に
平行線は果てしない
追いつけないダブルシャープ
デクレッシェンドが
ゆるやかに
あやしてみたり
フラットに なだめられたり
頑固な全休符は
ポディティブな七連符と
相性がが合わない
沈黙の深みを教えようとしても
生まれついての八分音符
サッサと転がり
逃げてゆく
平行線に並べられた
ひとつひとつの個性たち
ひとつとして無駄はないのに
噛み合わない不協和音の楽譜を
ただ眺めながら
黒く塗りつぶされた
記号の群れを指でなぞり
歌えないプリマドンナ
声が出なくなった頃
ト音記号の歪曲さ
今更ながらに
思い知る

詩と思想五月号佳作作品

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歯車が狂うように

歯車が狂うように
歯車が狂うように
詩をつづる
ペン先から漏れてく私
棺に文字を入れられて
喋りすぎる言葉の茎が
耳元から伸びゆく
咲いた向日葵が
うなだれて
私の顔色を伺いながら
土色に染まる
私は静かな雨音に
消されて逝く
去りゆく人々の骨を
拾う
墓標
詩人の墓に
添えられた言葉は
喪失
ひとつひとつの
歯車が狂うように
詩人の運命は
張り詰めた
ピアノ線
一筋の音色しか
奏でることを
知らない

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波紋

波紋
路地裏の企み
過労死する
サラリーマンに集る
マスコミ
埋蔵金の謎解き政治家
原発の隠蔽科学者
たかが日本
されど我が国
出てゆけない自分に
破門
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生と死の狭間に濡転がって

生と死の狭間に寝転がって
日が昇り ラジオから流れる 放送を 掻き消すような 草刈りの女(ひと)
青空に 快晴と描く 正直さ 登校生徒に 割けない時間
山裾を 目にしてみれば 若桜 季節の軌道に遅れた私
洗濯や 布団干しに 追われても 私の今は 誰にも負えない
光射す 汚い部屋にも 光指す 埃にまみれて 質問された
毎日を安穏と暮らす私など 鬼と罵れ 東北の人
窓からは 夕暮れ見えます 茜空 多くの犠牲を 払った空に
生きてきて 沢山友人 死にました 動けぬ私を 責める魂
水いっぱい 飲めない人と同じ血が 流れていると 知りたくない夜
年取れば 夢を描くなと いう人の 夜の予言を キャンバスに描く
さようなら 何もしないで暮れる今日 おやすみなさい 明日も振り出し
お前など 死ねばいいと 呪詛の札  明け方までも響く嬌声

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感情

感情
入り込む海に
渦潮が逆巻き
碧い涙を
凌駕する
満月には
満たされ
新月には
干からびて
嘘月の賭博に騒ぎ立つ
鼓動の狭間
満ちたり
欠けたり
満ちたり
欠けたり

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岸壁の上に砦
打ち砕く
女のヒステリー
荒波を見下ろし
包括する空と海
たとえるならば
私の灯火
哲学より深く
恋愛より激しい
あなたの身体は
そんなにも
細いのに
砦に差し込む
日差しは
暴力的なほど
私に優しい

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再会   〜或る女の為に〜

再会    〜或る女の為に〜
指で弾くような恋をして
泡のようにふくらんだ蕾のままの私
黙って剥がれないマニュキュアを
そっと塗る
この指先に点る灯りは
誰にも触れさせない
指先から身体の芯まで
発光する流動体を
揺らめく炎に変えて
旅人の帰りを待ちましょう
邂逅を一陣の風に今は攫われても
春雨が別離の涙を溶かしてくれる
春 雛罌粟を一輪ください
花言葉は純愛
さらば恋人
されど恋人よ
私は歓んで貴方の礎となりましょう

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布団

布団
慈しむような嘘で
温められ
抜け出せない私を
抜け殻にした
快楽部屋の牢獄
私は私の夢を
毎夜咲かせては
腐らせ
咲かせては
腐られ
干さなければ
ならなくなったほどに
悪夢は染み付いて
今も まだ
一緒の布団で
眠っている

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ミエナイチカラ

ミエナイチカラ
見えない引力で二人は
繋がっているのに
春嵐の花びらにかき消されて
彼は貴女に気づかないで
今日も明日も明朝体を
打つでしょう
互いがS極とN極ほど
正反対でありながら
強く惹かれ合う
その磁力に明朝体もペンもなく
彼の目には裸の女が独り
言葉なく真夜中過ぎの
引力に抱きしめられるだろう

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小詩  四編   3

小詩 四編  3
【目眩】
嘘のような誠が
まことしやかに
うそぶいて
三億年から
地球を廻す
嘘が誠で誠が嘘で
愛と正義が見つからなくて
兄弟人類
まことしやかに
目を回す
【電灯】
僕の中に
ホタルの下に
君の芯に
灯りが点ると
よその子供が
たくさんよってきて
笑顔の明るさ
四百ワット
【眩しい】
あなたの鎖骨から流れる
一滴
【指輪】
あなたが
薬指に噛んだ
歯形が
痣になったまま
私を赦さない
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