泣く花

泣く花
どんなに綺麗な言葉を並べても
それは私の言いたい事じゃない
どんなに綺麗に言葉を選んでも
暗闇が深くなるだけでした
どんなに綺麗な言葉を重ねても
花は必ず無常の風に舞い散るでしょう
あなたと語り合う言葉
笑顔と光に揺さぶられ
花はポンと咲く
けれど
落ちるその瞬間に
あなたのてのひらの中で
死ねたらいいな
(魂が振り向いて少し泣いた)
命或る限り
言葉を並べて選んで重ねて
紡いで逝く
命或る限り
あなたを慈しみ
生きて逝く
自然に零れた涙が
ひとつぶ
生死の狭間を
歌い続けていた
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ただのひと

ただのひと
働いて働いて
稼いだお金は
ギャンブルに
喧嘩して喧嘩して
母は身重のまま
実家の病院で
弟を産んだ
望まれない子は
進学校の生徒会長に
期待して期待して
育てた会社と娘は
倒産した
単身赴任と入退院
歯車がかみ合わないまま
二人三脚の人生を
終わらす父へ
詫び状を
書き足す頃に
癌の宣告
喀血死
サヨナラだけの
ただの人
生んでくれただけの
ただの人
私がこの世で
たった一人
【お父さん】と
呼べる
ただの人

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春嵐

春嵐
幾つもの夜を抱いて
胸に描くは夜の月
春雨 憂い
夜の静寂に降る銀糸
闇に浮かぶ裸の輪郭は
剥離する眼にこびりついた
春の灯
三日月に横たわるあなたを
水が蹂躙する
紫淡の指先 曲線をなぞり
月光の如き肌は
歪な旋律に耐えられず
狂乱の蜜は滴る
真綿で首をしめるように
愛された躰に
牡丹の花弁は舞い落ちる
掌中で喘ぐ小鳥の
あいくるしさよ
恍惚と痛みを柩に納めよ
春乱
淫を誘い 白濁する視界
独り歩きする身勝手な独占欲は
あなたの骸を沈丁花と共に沈める
乾いた魂 青ざめた唇を
黒い爪でこじ開けて
口腔から溢れる紅の接吻
あなたの名を掠れた声で叫んでも
届かない恋
春嵐に
狂った二つ銘
紅の慟哭
月の沈黙
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ひだまり

ひだまり
夢見心地ですか
夜だというのに
まだ遊び足りない
と駄々をごねる
あなたは少年
私の胸に
あなたが漕いだ
ブランコが
ひっそり
揺れています
一緒に
靴飛ばしした
公園
あの日の靴は
木陰に
隠されたまま
秘密の基地に
置き忘れた
あなたの知らない
ひだまりの
思い出話

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手紙

手紙
誰かに手紙を書いてみたい
水面を漂うせせらぎと
若葉が色づくような思いのたけを
彩るように綴ってみたい
誰かに手紙を書いてみたい
それは天の川の物語
それはロミオとジュリエット
それはローマの休日
それは
眠りに埋もれない春の夜の夢
誰かに手紙を書いてみたい
未来の自分に届けたい
過去の自分に投函したい
一生懸命生きてきたか
尋ねられたり
尋ねてみたり
誰かに手紙を書いてみたい
青いインクを滲ませて
泣きながら
足掻きながら
私はここよと
どこまでも
どこまでも
あなたへ

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ましろき月を紅に

ましろき月を紅に
切り取られた枠の中
微笑する貴女よ
夜々に言葉を降らせ
あらゆる星々を従え
寂寥の渦から
零れるは月の雫
笑顔の下に隠されし魂の旋律を
赤い媚薬に変えてくちづける
柔和なましろき肌に
刺青を施すように僕は愛す
刻印を受け貴女はのけぞる
火照る傷口
指先 爪弾く肢体
貴女の狂態
魂の戒め
刻印に成婚の証を
あらゆるスティグマを
貴女の痕に残し
解読出来ぬ夜を抱いて
今宵 鏡台に浮かぶは
紅に染まりしましろき月

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時経てば・・・・

時経てば・・・・
時たてば過ぎゆく人の無情さよ知りつつ恋を望むは愚か
人恋しい恋し人らを捨ておきて我はゆくなり自分の道を
指先で孤独をなぞり泣き明かす私は女哀れなくらい
さようなら疑似恋愛のおつもりで遊ぶのならば我に暇なし
時たてば春は来ると言うけれど凍える閨に春 便りなし
過ぎゆきて振り向くことも無い人とわかっていながら信じた嘘たち
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すべてが砂に埋もれても

すべてが砂に埋もれても
満ち欠けする
嘘月に
惑わされるように
濡れた秘め事は
夏の日の線香花火
あなたの後ろを
追いかけてきた
私の足跡が
深海に眠る貝に
なりはてても
一方通行の恋の標識
私の墓標を
覚えていてください
全てが砂に埋もれても
記憶が灰になる日まで

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倦怠と微熱

倦怠と微熱
春雨の憂いにも似た倦怠が 濡らして止まず 強請るくちづけ
行間の隙間を指でなぞりつつ あなた探しに 開いた詩集
花曇り 繭に覆われ うずくまる 私は小さな地球の小部屋
車道すら 見捨てられた 線定規 棒線グラフに 収まらない道
鏡台に映った夜が続く昼 紅いルージュは寂れた小箱へ
日は暮れて タイムオーバー ゲームオーバー 私はひたすら歩いたメロス
大声で叫んだ恋を 拾っても 粉々に潰す さよならの君
誰のために 詩をよむ意味に 迫られて 息苦しさにあがいた私
惨めさと薄っぺらさと 儚さと 足して二で割る剥離する脳
書きかけの文字がゆらゆら 立ち上り 青空からは私の溜め息
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ボディーペイント

ボディーペイント
私は身体に
金色の蛇を飼っています
嫉妬の流動体が
這いずり回る
未練と栄光だけが
支配する半身
私は紫の鱗の分だけ
秘密を持ちます
爪先形の秘密たち
肌を締め付けこびりつき
過去の恋を
絞り出そうとする
私は表情を隠したまま
唇を閉ざし
誰にも知られぬよう
あなたを
アドレナリンから
追い出そうと足掻きながらも
滲み出る
終わった沈黙の夜を
数えています
私は上手に苦悩する
だから
あなたよ
描いてください
鮮やかだった
過去を私に

詩と思想五月号佳作作品

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