きみはぼくの歌であり
詩であった
きみはぼくの透き通る風
静かな湖水
きみがシーラカンスだったころ
ぼくはアンモナイトだった
君が活火山で怒っていたとき
ぼくは冴えない紙切れだった
きみがぼくと歩んだ道は平行線
一番近くできみをみて
一番遠くに感じてた
きみ
もういいよ
きみが地球の裏側で
クリスマスを迎える頃
ぼくはたぶん砂糖黍を
植えている
植えているんだ
飢えているんだ
餓えていたんだ
パキリと折れた砂糖黍
きみにあげるハートのチョコが
ぼくのために割れた音
アディクト
麻痺した詩文
解読不明の怪文書
死海に沈んだ遺跡
白い部屋には
彷徨える頭脳
細胞分裂を繰り返しては
前途多難の前頭葉
一途な道に
立ち入り禁止の立て看板
ストーカーが
グルグル廻る
終夜(よもすがら)
もしかしたら
君にアディクト
(私信短歌)
眼光
あなたは言葉を探す
本棚の深い森に
真昼を横切る猫の瞳に
君は主張を述べる
褪せた選挙ポスターに
迷い犬の張り紙に
人々は見つめ続ける
車に敷かれた猫の白目
保健所に運ばれる野良犬の陰り
私たちは詩を綴る
滲んだ万年筆のインクから
本当に伝えたいのは
青い涙
眼のスクリーンに焼き付けられた
日常化する赤と黒を
鋭利な刃で記録する
行間の隙間に想いを折り込み
文字に祈りを託してみても
ペン先から滲んだ染みが
じわじわ波紋を投げかける
それぞれに与えられた質問用紙
青いインクは「空」を描く
胸にインクを滲ませて
私たちは寂しく停電するだろう
それでも遺さずにはいられない
記憶の森に沈まない太陽
夕映えをに轟く雷鳴
稲妻のような瞬き
全ては
見開いたままで
晩夏をゆく (小詩 四編)
【晩夏】
線香花火は湿って
微熱は褪せてゆく
なのに
鼓膜から
蝉時雨が
鳴きやまない夜
【立秋】
まだこない手紙を
待つような
忘れた人から
ひょこり
電話がくるような
女の第六感が
少しずつ
紅葉するような
【彼岸過ぎ】
あの人たちは
ちゃんと
往けただろうか
燃えるような
彼岸花の合間を
【故郷】
ここ以外
どこにふるさとが
あるのだろう
桐の箱には
干からびた
私のへその緒
幻
言の葉を並べて祈る最愛の人は消えゆく音楽にも似て
とめどなく 溢れる想いメロディーに歌えど歌えど君には届かず
夏の日に 飛んだ蛍の灯火に 君はみたかい あの灯(ひ)に愛を
来世では 添い遂げようの 約束も 来世があってならの約束
人知れず 君の名を書く 君を呼ぶ 姿形も白紙のノート
また会おう またっていつなの どこでなの 黄泉路は私独りで逝くわ
最近の私は悲劇で喜劇なの 自分の余命玉響の音
詩はかかない 詩は書けないの だから今 死を書いてるの 死を書いてるの
招き猫 招いてください あの夜を ブルーノッテの薫るあの女(ひと)
さよならと言ったあなたの始発駅はじめましてが冷たい終着
真夜中にあなたをさらった 犯人は 哀しく泣いたカムパネルラ
嘘を塗り 罪を纏い 泥濘に 足掻きながらも 僕には君だけ
世界から弾かれたのは鎮魂歌 モーツァルトは いまだ眠らず