恋獄

恋獄
駆け引きの
煉獄の恋に
繋がれて
交換したい
あなたの孤独
淋しさに
降り注ぐ雨
しなやかに
あなたを濡らす
わたしを濡らす
哀しみを
愛(かな)しみという
一文字に
変換出来ない
自分がキライ
独りという
夜に殺され
裁かれる
わたしは此処よ
わたしは個々よ
傷口を
舐め合うように
キスをする
舌から漏れた
さびしい さびしい
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ジューン・ブライド

ジューン・ブライド
「六月に結婚する花嫁は、必ず幸せになるんだって。」
そんな宛もない煽り文句から仕組まれた
ジューン・ブライド
花嫁は純情を誇示する白百合のブーケを
青空にほおりなげ
幸せの候補者にバトンを渡す
ハネムーンの門前を
引きずる純白のドレスの裾を
上がりぎみの口角線を
たどってみれば
二次会の最終電車
帰れない男たち
路線から落ちた友人を
男手三人 
プラットホームに押し上げる
くだを巻く群衆と
男たちの 吐く 吐く 吐く
四つん這いの嗚咽 
ズボンから飛び出したベルトとトランクス
拳と拳 罵声と叱責 
落とした免許証 
行き先が分からない迷子の切符
夜を渡る巨大な蛇に呑まれた人々を
六月の花嫁は振り返らない
駅には【おめでとう】のカードを握りしめた
レースにくるまったままのキティ人形
黒い二つの猫の目だけが
夜を映して まだ
ご主人様の帰りを待っている

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百足

百足
今朝、床の上に大きなムカデが、這っていた。
私は、スリッパで、踏みつけて、殺した。
何度も、何度も、踏み続けた。
スリッパの下から足の裏に伝わる細長いふくらみが、
ベシャベシャ足に、へばりつく。
―――何度踏んでも、死なないムカデ。
   (オネガイ!ハヤク、ハヤク、死ンデヨ、
             イタイ、イタイヨウ…。)
痛い。
と、思った。
刺されたわけでもなく、私がムカデに何かされたわけでも、ない。
ただ、土足で家に上がりこんだだけで、
やがては、家族を咬むというあやふやな予感だけで、
咬まれたら、死ぬかもしれないという先入観だけで、
私は直ぐに踏みつけたのだ。
私が、踏んで踏んで、踏みつけて、(踏みにじった)赤黒い丸い塊を、
金ハサミで、庭に打ち捨てる。
その後、ムカデがどうなったかについては、は知らない。
鳥の餌食になってついばまれたか、蟻に集られて、黒い穴で、食いちぎられたか…
そして、私も、すぐ忘れていくだろう。
けれども、あの腸も血も真っ黒な生き物こそ、私では、なかったか・・・。

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紫陽花

【紫陽花】
透明な蒼をたたえた僕の傍に 一房の紫陽花
「ねえ、紫陽花の花言葉を御存知ですか?」
意地悪そうに 僕を見上げて
刺さったままの あの日の視線
やわらかな微熱の風が 
今 紙とペンの間を 通過してゆく
 僕たちにバーボンは似合わなくて
 カクテルのようにも混ざり合えない
 バニラエッセンスの薫るホットミルク
 ウヰスキーを忍ばせたブラックコーヒー
 寄り添ったマグカップの中
 沈んでいたのは 僕らの未来
 マーブル模様の天気予報
売れない小説家の僕に
貴女はちいさく笑ってくれた 一房の紫陽花
「ねえ、紫陽花の花言葉を御存知ですか?」
淡いピンクに戻れない
雨に濡れたままの いつかの 紫陽花(しようか)
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のぞき込んだのは

のぞき込んだのは
真っ暗い空に
月の船が
帆をかけて行くよ
  ひかりをあつめて
  なみだをわたるよ
月の船が
夜を越えるよ
  きどうのさきに
  きぼうをのせて
 帆をかけて
  哀しみすらも
   呑み込んだ
     月の船
柔らかに浮かぶ翳り
やみくもに伸ばした微熱
そんなあなたの満ち欠けを
映した地上の月鏡
覗いてごらん
 語らない物語
 胸に沈めた迷宮
とおい日のあしあとを
追いかけながら
泣き出した
あなたが唄う
いつかの哀歌(エレジー)
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ちゅうせい

ちゅうせい
君は僕に女になれというのか
着物に白い足袋と草履を添えて
君は僕に女を魅せろというのか
胸の重みを感じて
泣けと
君がみた
春画が僕だ
君の詩集の
あ、ふれる
の文字が僕だ
僕を見る君の眼鏡は
赤外線装置付きの
魚眼レンズ
もう
知っているよ
君に裸を
晒して歩いたことも
君が風になって
撫で回した指も
でも
僕は中性
忠誠を誓った人にだけ
僕は女装できるんだ
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名前

名前
同じ夕暮れをみていても
もう同じようには
見えないのは
目が人に 二つ
あったからだろう
その片目同士に
光と逆光の速度で
墜ちて逝く夕日を
僕たちは
【綺麗だ】という
形容詞で簡単に括って捨てる
笑っていても笑っていない
視線の路地裏の店を
さすらえば
君のお腹の中に
贅沢な珍味たちが
放り込まれていたのを
僕も一緒に
漁っている所が見えた
同じものをみていても
綺麗と綺麗事の
区別のつかないような愛に
名詞をつけるなら
ヨルと闇
くらい、の
覚悟

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悪意の道先案内人

悪意の道先案内人
良く思われたいからの
ひとことが
言われるままに都合よく
放り出されたので
世渡りの処世術を見破った
頭も目も逆さまだったら
月は夜
ひとことに 愛の錬金術を覚えただろうか
 私の文字や言葉が
 鏡に曇るのは
 鏡に裏表があったから
 かもしれないし
 また
 私がもともと
 曇った顔つきだったから
 映ったまでのこと
ひとことで傷ついて
他人事で大火傷
せっかちな詮索好きの前頭葉
ひとことで片付ける
手間要らず
バランス失う後頭葉
アンバランスな距離と溝
温度は棲めなかったと
泣き去った
ひとことの先の
めんどくさいが被害妄想に
ちょっかいだして
目があえば
会うたび毎に
鬼が笑って
ひとこと先の地獄行き
一寸先に詩が笑う

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【あ、いたい。】

【あ、いたい。】
宇宙の孤独が理由をつけて
詩人や芸術家や思想家に
淋しさについて
夢想させると
男は全て叡智に滅ぶ
宇宙は嘆き
その哀しみを
女に託し
愛しい愚かさを与えると
全ての女は炎になった
怒りは人を殺し
孤独が人を殺し
心はビッグバンを
おこしながら
やがて知恵と
手を結び
初めての軌道を渡る
新星が 宇宙の孤独に
光を差し込む
その輝きが
あなたとわたし
シンパシィする
空のよろこび
海のかなしみ
この惑星の
男と女
愛、痛い、する
心と心

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咲かない花

咲かない花
茶色いトタンの家に咲いてる花は
赤い蕾の 冬の薔薇
トタンの家の軒下で
幾重もの花びらで 身を守りながら
固く口を閉ざしたまま
陽のあたる逆方向に 咲いた花
もしかしたらこの薔薇は
自分が薔薇であることも
自分が赤いということも
自分が花であることも
忘れてしまったのでしょうか
遅咲きの馬鹿馬鹿しさを
取り残される悔しさを
霜にまみれて 蝕まれていく痛みを
悟ってしまったのでしょうか
それとも
お薬を与えられ 人の手で
ひんしゅかいりょう、されてしまった
自分のことまで
知ってしまったのでしょうか
冬の陽差しの中を 車が一台
家族みたいな 三人を運んでゆきます
父親らしき人は 
請求書の束を見ては 痰のような唾を吐き
母親らしき人は
年末に米粒みたいな愚痴をボタボタこぼし
娘みたいなものは
手招きする
枯れたススキの大群を 横目にしながら
うつむいて 真っ黒い文字を書いています
冬の陽光は
この不自然な 真っ黒い車と人の影と文字を
斜めから照らしては 平行四辺形に切り取り
そこに 対角線を引こうとします
それは 世界の誰もが見ている
そして 知らないことなのです
飼い猫が布団の中で眠っています
優しいご主人様の夢を見ているのでしょうか
もぬけの殻になった家から ご主人様は今頃
お前のことなど 忘れて
びょういん、に向かっているのに
呑気で可愛い夢見る猫も
うつむいてどこまでも黒い文字を
ノートに走らせる娘も
咲かない花の秘密に近い場所で
やっと 息をしています
咲かない薔薇
咲かない花
咲かない赤
たくさんの人の 期待を裏切って
たくさんの人の 恩を裏返しにして
腐る花
何を握っているのでしょう
そんなにも 頑固に一途に 意地悪そうに
 人々はいいました
 愚かな花、役に立たない色、
 折角買った赤薔薇のくせに高いだけか!
 全くやりきれないですね・・・!
 そんな言葉を みんな
 はちうえの中に隠して 蕾を見みては
 「見守っているよ・・・。」と、いう嘘で
 囲いを作って 一生懸命 温めようとする
     
薔薇は咲かない
娘は口をつぐむ
猫は夢から抜け出せない
そして 車は・・・
薔薇と同じ 光の射さない方向へむかって
はしる

詩と思想2013年四月号・現代詩の新鋭特集号掲載原稿。

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