半端の瞳

びん
半端の瞳
君の一番好きな酒は
マーテルのコルドン・ブルー
ブランデーの中の一級品
なのに
僕にねだるのは 半端物の「桂花陳酒」
ただ甘いだけの安いリキュールを
君が好むのは
僕の瞳(め)の色が
この酒と同じ 色素の薄いシトリン石だからと 笑う
琥珀の鏡に笑顔がうつると
メラニンの少ない僕の瞳(め)は
眩しいものが苦手で
君が綴った掌編小説に目を移し 後ろから君を抱き締めながら
一節を囁いた
君が僕の瞳色 全てを飲み干して
午前3時の夢魔と戯れている頃
無粋な天使が夜会に現れ
「ハリネズミ同志の恋は破滅する」

半端な予言を残して 飛び去った
エゴイストの香が充満する部屋
彼女は何も知らない
ただ明日も僕の色を飲み干す夢物語に抱かれているのか 小さく 喘いだ

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きれいな瞳


きれいな瞳
その日は、ある宗教法人から、自宅に帰る途中だった。
「神様は良い事しかつくらない。そして人間は神の子であって、魂は無限成長する」
そんなことばに感化された私は、じっとしていられない喜びに満ちた昂奮と」、感動で、電車に揺られ、大阪駅に着いた。
夕方、六時。
プラットホームに立って、電車を見送る。
電車の窓から見えていたものは、ニコリともしないくたびれたおじさんの顔。
うつむいたサラリーマン 。 つかれきった人間の姿。
私はそんな光景を見て、なんだか苦しくなった。
「神様は、本当にあの人たちの中にもいるの?」
そんな疑問さえ、わいてくる。
電車はつかれきった人間を吐き出すと、またゆっくりと動き出し、素知らぬ顔を向けながら、やがて小さく、暗闇に消えていった。
朝、七時。
地元の田舎道を歩く。
朝焼けの中、刈り込まれた稲に、うっすらと露が残っていた。
少し寒いが、凛とした空気の中、私はいた。
久しぶりに見る懐かしい景色に、なんだか穏やかな気持ちにさえなってくる。
前方に自転車に乗った女子高生が、こっちを向いた。
白い頬を赤らめ、恥ずかしそうに「おはようございます」と言って、一礼する。
私もあいさつをして、頭を垂れる。
そんな私を見ると、少し笑って力強くペダルをこいで、学校へ向かう。
もう、私の事など忘れてしまったというように、前へ前へと進んでゆく。
あぁ!  あれは、私だ!
朝練の部活、大好きな教科と、苦手な先生。
学校に行けば、仲間がいて、恋人がいて。
自分の進路の事よりも、どうすれば授業中にお腹の音を消せるかに、神経を集中させていた私。
どうすれば、好きな人に想いが伝わるか、悩んでいた私。
明日もまた、そんな平凡な幸せが来ると信じていた私。
そんな自分が大好きだった私・・・・。
きれいな瞳をした少女。
その姿を見送る私も、きっときれいな瞳をしていたに違いない。
その時私が見たものは、この国のささやかな平和の姿であったのだから。

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POWER OF LOVE

愛しているぜ 信じろ!!

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徒然に本音

徒然に本音
「尻尾」
子犬が
じゃれあうように
人間同士が
どうして心を赦せないのか
御主人様に頭を
撫でてもらうのを
嬉しがるように
なぜ人は素直に喜べないのか
犬たちよ!
お前たちの尻尾は
そのつまらない答えを
知っているのだろう
「疑う」
人の愛情表現は様々で
時々 裁きたいのか
教えたいのか
解らなくなります
そこに愛はあるの?
そこに誠はあるの?
そこに真実は隠れているの?
「思い出」
振り返ると
今までやって来たことが
嘘になるようで怖いのかもしれない
けれど
愚かだったと笑えるから
振り返りたくなるかもしれない
「幸福のありか」
不幸そうに見えても
幸福な人がいる
幸福そうにみえても
不幸そうな人がいる
井の中の蛙は大海の在りかを知らない方が
幸せだったんじゃないかって…
「人の心」
真実を写し出すカメラがあればいいのに!
「神様」
例えば
私が泣いてるときは
慰めてくれて
例えば
私が疲れているときは
愚痴を聞いてくれて
例えば
私が強がってるときには
泣いてもいいよと
頭を撫でてくれて
例えば
私が逃げ出そうとすると
叱ってくれる
そんな都合のいい神様をさがして三千里
「恋」
あなたの大きさを
信じたくなった
飛び込んでいったら
受け止めてくれるような気がして
私の全てを
みせたくなった
「唄」
人生は、みんな唄で、できている
歌詞は自分で作れば
世界にひとつだけの歌
自分で唄えばさらに満足度100%
「詩」
詩を書いてるの?
とノートにきかれて
絵を描いてると答えた午後の色鉛筆

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ツトム君の電車

ツトム君の電車
「先生!」
 生徒の絵を見回っていた私の背後から、勢いのよい一つの声。
「先生!僕の宿題も見てよ!」
 宿題というのは、二週間前に、
「何でもいいから好きなモノを描いてきましょう。」
と、言っておいたことだった。
 声の主は、何でもかんでも堂々と描くツトム君。私は、この子の絵が何故か好きだった。小学二年生の絵に、遠近感や陰影を求めるのは無理と分かっているのですが、このツトム君の絵は、本当に我が儘に出来上がることが多かったのです。
 秋の写生大会においても、奥山寺という寺を描きに行ったのに、ツトム君は画用紙いっぱいに鬼瓦だけを描いたり、姫路城を写生に行っても、近くの動物園まで歩いて行って、孔雀を描いたり、絶対に人の言うモノを描かない子でした。(しかも、その鬼瓦は恐ろしい形相をしているくせに、全色ピンクなのです。)
 しかし、仕上がる彼の絵は、どんな時だって迷いがなく、いきいきとして、人をうち負かすような熱意が感じられました。他人を振り向かせる程の自信と、常に激しく自己主張する彼の絵が、私は好きだったのです。
 だから、ツトム君の宿題を見た時、正直ひどく落胆しました。何故って、彼の画用紙には、今にも廃車になりそうな黒い小さな電車が、長い長い線路の上に横たわっているだけなのですから‥‥。
「ツトム君、これが君の好きなモノなの?」
「うん。」
「何だか寂しそうね。」
「寂しい?違うよ。先生。この電車は今から出発するんだよ。」
「中には人がいないみたいだし‥‥。」
「だって、乗り物酔いするからって、お母さんが乗っちゃいけないっていうんだもん。」
「じゃ、絵の中だけでも乗せてあげたら?」
「ダメだよ!電車の中はきっとつまらないよ。外から見てるほうが絶対かっこいいよ。」
熱っぽい口調でしゃべり続けるツトム君。私はただただ曖昧な返事をしました。
「そんなものかしら?」
「そうだよ先生。それにこれは僕の為の電車だから、誰も乗っちゃいけないんだよ。
 ツトム君の宿題は全部で四枚。
 どうやら電車シリーズは続くみたいです。彼は二枚目の電車の絵を私に見せました。
 なるほど、二枚目の絵は一枚目に比べて楽しそうです。まず電車がはじめのものより、ひとまわり大きくなっていること。次に辺りが、大きな木と花や田畑に囲まれていること。そして山沿いに家があって、小さな少年が手を振って喜んでいること。
 どれをとっても明らかに以前の寂しさは消えていました。画用紙の上はツトム君の幸せでいっぱいです。
「楽しそうな絵ね。」
「電車が僕の町にやって来たんだ。ここまで来るにはきっと、たくさんの木や花を見て、僕の知らない道を通ってきたんだ。」
「だからこんなに、賑やかなのね。」
「そう。この電車は、僕の夢に向かって走ってるんだよ。」
 そう言うツトム君の顔は、本当に幸せそうでした。
三枚目の電車は二枚目よりさらに大きくなっていました。どうやらツトム君の電車は成長しているようです。景色は二枚目とほとんど変わっていませんでしたが、山沿いにいた少年が電車の傍で大きく描かれていました。
「この男の子はツトム君なの?」
「うん。」
「前より大きくなっているわ‥‥どうして?」
「それはね‥‥。」
 ツトム君はその時、今まで見せたことのない不思議な冷笑を浮かべました。そしてひどく無防備な仕草で、ゆっくりと三枚目の絵をめくりました。
 下から現れたのは、画面いっぱいに描かれた真っ赤な電車。今にも爆音が聞こえてきそうな暴走する赤い電車だったのです。
 線路はありません。風景もありません。人もいません。
 自然や生命からかけはなれた赤い人工物が、悪魔の玩具のような姿で画用紙にベッタリとはりついていました。
 うまく描かれていました。スピード感もあって、細部まで細かく描かれていて‥‥。
 けれど私はただ黙ってその電車を見る事しかできませんでした。もしかしたら私は恐ろしい顔をしていたかもしれません。
 ツトム君が私の顔を笑って見つめています。どうやら、自分の最高傑作に対する誉め言葉を心弾ませて待っているのでしょう。しかし、私はこの電車が赤い理由を知っているから、何も言えませんでした。おそらくツトム君は大好きな電車の前に飛び出したのでしょう。そして、これが彼の夢なのです。
 私の言葉は、明らかにツトム君の期待を裏切るものでした。
「痛かったでしょ‥‥?」
 恍惚な表情を浮かべていた彼の瞳は、私の言葉を前にして、いくらかその色を失いました。そして、黒い瞳をますます黒くして過剰の熱意をもって語るのです。
「どうして?先生は好きなものを描けって言ったじゃない。好きなものと一緒になったのに、どうして痛いの?」

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ヌード

ヌード
ヌード
これは多分私が貴女に贈る残像
見栄もなく
ステータスも持たず
金もなく
あるのは
恥じらいの表情 舌足らず
ブラのはずし方さえぎこちなく
スカートの下の黒のガーターベルトに
顔をうずめて舌を這わせると
月に花は咲いた
君は人間にはじめて抱かれたのだと言い
私が初めての人になったのだと
小さく 笑った
あれから幾つもの夜を重ね
嘘を纏い
偽りの口付けを交わし
狡猾な詐欺詩を耳元で囁き
罪悪感は欲望のはけ口に手を結び
簡単に身体を暴く盛りのついた狂犬に
君は追い詰められた
別れ話など何百回繰り返しても
お互いを求め 二人は腐敗し死んでゆく
逢えなくなった今
真実が胸に問いつめるのは
初めての夜の白すぎた二つの裸体
向き合った二人は纏うものすら見つからなくて
おそろしいほど素っ裸だった
これからは貴女に贈る最後の残像
魂なら あの世に呉れてやる
愛する女(ひと)よ
最後の願いだ
私が死体になったら
ピエタのような一枚の夢たずさえて
あの夜のまま 逝かせてくれ
これが愛に向き合った裸の残像である

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紅葉(こうよう)

紅葉(こうよう)
紅葉(こうよう)
木枯らしを待ちわびる君の心に
紅き葉が寄り添い
透明に近い白い風景に
色彩をおとす
染み込ませたい
沁みさせたい
女がひくの紅すら
風に靡く貴方には
色も持たず
ただ
夕暮れの秋に
空が染まるのみ
貴方の視線の
向こう側に
虚空の嘘が一つ
陰を纏い
紅葉の炎すら
不知火になりきれず
ただ 朽ちるだけ
訪れの便り遅く
二人の心には枯葉が舞う
あぁ
今 踏みつけた
色褪せた葉の名こそが
「恋」
ではなかったか

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蜜指

蜜指
蜜指
決して美しいとはいえない私の短い爪に
貴女そっと火を灯した
じっと していて…
それは魅了の呪文
ローズパラダイスに染め上げらた私の指は
淡い水色の携帯の上でも
貴女の独占欲が自己主張する
マニキュアに温度が
指先に恋が
呪縛に艶が
あるなんて
思いもしなかった
なんて鮮やかな執着
この指で今夜も貴女に触れるのに
貴女は全てを知っていて
私を禁断の園へ誘う
禁じられた遊戯に弾かれて
貴女はどんなふうに踊るのだろう
指先には枷
染めあげたのは
鮮やかな夢の夜
薔薇色の爪は温度を保ち
私に花園の鍵を与えた
今夜も…花が…咲いてしまう…
あいくるしい花が
夜露に濡れて
焔のような雫を指が
絡めるだろうか

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澄んだ空のかたわらで

澄んだ空のかたわらで
>澄んだ空のかたわらで
貴方は夕暮れまえの
澄んだ空のような哀しさに
言葉を連ねて
独房で小さく笑っている
涙のようにあふれる貴方のメロディーに
多くの人が救われていることも知らずに
秋空に影を落とすのびない電柱
本当は
どんな時だって大丈夫なんだよ
夕焼けに染められて赤く想いを馳せてもいいんだよ
ちゃんと月がかたわらで
貴方の秋空の暮れゆく淋しさを照らしているから
安心して
その翼を恥じないで
天上の高さを謳いつづけても
誰も貴方をせめたりしないよ</span

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紅葉狩

紅葉狩
戸隠(とがくれ)の國 鬼女(ヒメ)紅葉(くれは)
崇められたる妖力と匂い立つ美貌の持ち主
平(たいらの) 惟茂(これもち) これを愛す
嵐の夜に恋は姿を現し 桜(はな)は乱れ散ることを知らず
酒瓶(さかがめ)に底なし 月は望月
躯(からだ)の熱は冷めることなく 閨(ねや)の夢もまた然り
操るは紅葉の舞い 惟茂の気色(けしき)
指を絡めて二人は狂い
薄暗がりで互いを悟る
淫猥な夢にうなされ
宴で煽るは 美味の毒杯
愛の言霊(ことだま)は 日月の輝きの如く火焔(ほむら)を放ち
花は華となり  艶やかに咲き誇る
真実(まこと)の愛は 鬼女(ヒメ)を比女(ひめ)に変え
紅葉殺める短剣は 底なし沼にて
愚者の恋の理(ことわり)を笑う
美酒(うまざけ)は尽きず 花は枯れず
かくて 紅葉狩(もみじがり)の幕は下りず

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