泥濘に足をとられて淵へ
差し伸べた手に石を握らされ
叫び声に冷飯を詰め込まれ
沈んでゆく肢体
浮かび上がる視界
夜の淵
人影はない

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仇人

仇人
胸の真ん中の常夜灯
ぬばたま色に点滅
凍える閨に入り
独り
歌を歌う液晶画面から
文語体の恋人たち
雨に濡れて
衣に逢瀬の
韻を踏む
待っていたのは
恋人が差し伸べた手
振りほどいたのは
私の後ろの私
新月を忘れてしまった
嘘月
骸になった言葉を
あなたは抱いて
闇夜に御手紙
隔たれた壁の向こう側に
蠢く毒虫
奪うことでしか
あなたを
つなぎ止められない
かった
私は 仇人
赦されない
己の罪を恥じて
奈落の底へと
今日を
彷徨う

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晩餐

晩餐
確か猫の縄張り争いの鳴き声か
犬の不安定な吠え声で
三人は真夜中に起こされたと思う
銘々が空き巣の心配や
戸締まりの確認をし終わると
暗闇からにょきっとでてくる
手を気にしながら
小さな電気ストーブに身を寄せ合い
そこだけをぼんやり光が照らし出した
父は蝕まれてゆく肝臓を
新鮮なレバーで食べてみたいといい
母は心臓に入れた電池を取り外して
ハツにして精をつけたいという
私はキャンバスに色をつけて
食べて生きて行く話をした
三人が各々
言葉を飲み込み
誤嚥なしに噛み砕き
耳から材料を取り込み
頭で味わっては
互いのレシピの奥義を
聴きながら笑った
もうこんな美味しい食事に
ありつけないことも悟った
朝日が昇る前に
父は闘牛士になって
極上の生レバーを手に入れたいとスペインに
母は生き肝を食べたいと
出刃包丁と刺身包丁を持って
鬼婆の弟子入りに
私は絵に描いた餅を探しに街へ出かけた
誰も帰らない家に
あの晩餐のレシピだけが
灯りをつけて
待っていた

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眠り姫

眠り姫

苦悩の夢から誘惑するのは
ヒプノスの白い闇
一錠
征服されたあなたは
青白い顔に
動かなくなった紫の
唇から
僅かな毒の吐息を
漏らし続けて
王子様を排斥しようとする
朝日ののぼる空を
私は早々に折り畳み
寝床の周りに茨を
巡らせれば
誰も踏み込めない
領域にあなたの棺を
用意する
誰の声にも靡かぬよう
進入禁止の立て札が
褪せぬよう
白濁した沈黙の憩いの場を
守ったまま
あなたが
目指して自ら進む
黄泉の国の道すがら
もう一度
私に振り向いてくれるように
今日も明日も明後日も
桃の香の涙を流そう
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夢のように

夢のように
春雨の温かさ体温の如し
掴めぬ虚空 君の姿なり
青空の寂寥を涙雨
水槽の中
金魚一匹の孤独
投げ入れられた小瓶が波紋を呼び覚まし
恋が滑り出そうとしている
まるで夢のように

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忍び愛

忍び愛

踏み出せば行方も知れぬ恋の道危うき事は覚悟の上で
君想う君に捧げし詠み歌よ夜露に濡れて文字も流れて
知らずとも君 居ぬ側の淋しさよ枕を涙で濡らす徒花

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なぜを持って

なぜを持って
人は産声をあげた時
なぜを握って
産まれてくるのです
なぜのどは渇くの
なぜお腹はへるの
なぜ夜になるの
子供たちよ
風の中の子供たちよ
なぜを持って
宇宙のなぞなぞと戯れ
なぜを持って
試行錯誤しては
音のない風景を省みる
真昼には緩やかな光を仰ぎ見
夜には去りゆく流星を数え
いつしかそれぞれの晩鐘を鳴らす
未来の子供たちよ
偏狭な地上の
疑問符の風が
頬を少しかすったら
お前たちは
どうして?
どうして?

いつまでも
親を困らせることでしょう

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青空から涙

青空から涙
青空を折りたたむような
終い事に追われ
広げた風呂敷も
今となってはたためない
こびり付いた友情を
優柔不断と殴り書き
サヨナラと
一言書いた紙飛行機
青空に向かって
飛ばしてみたら
たちまちの曇り空から
大粒の涙が降ってきた
私が慌てて折り畳んだのは
あなたからの
最後のラブレター
だったのかもしれない

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徒花

徒花
恋しきは 春咲く花ぞ 桜草 我は徒花 捨て置きたまえ

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未完成の・・・

未完成の・・・
未完成の
私は身体に
金色の蛇を飼っています
嫉妬の流動体が
這いずり回る
未練と栄光だけが
支配する半身
私は
紫の鱗の分だけ
秘密を持ちます
爪先形の秘密たち
肌を締め付け
こびり付き
過去の恋を
絞りだそうとする
屈折し挫折した
絵文字のような
サヨナラの冷血さ
私は表情を隠したまま
唇を閉ざし
誰にも知られぬよう
あなたを
アドレナリンから
追い出そうと足掻きながらも
滲み出る終わった恋に
まだ
涙がでます
私は上手に苦悩する
だから
この想いよ
最期まで
未完成であれ
未完成であれ

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