【再生/呼吸をするように】

【再生/呼吸をするように】
天と地の狭間で
射し込む光と
砂塵に帰す闇
光は高らかに産声を
あげて号令をかけ
闇は忘却の能力に支配されて
いつしか大地に身を任す
森は沈黙を守りながら
命の営みを呼吸し
ただひとつの例外もなく
目覚める者と
眠りにつく者を
代わる代わる
再生させてゆく
まるで
地球がひとつ
宇宙に
提案したかのように

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抹茶とプリン

抹茶とプリン
抹茶とプリン
少し渋めだけど
憎めない甘さで
ふるえつづける
プリンを
少しずつ優しい
新緑の言葉で
染め上げるから
私たち
ちょいどいい
柔らかさにくるまれて
午後のスプーンに
救われてしまう
温かい眼差しに
溶け出した汗は
滑り出した恋の味わい
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恋人へ

恋人へ
恋人と呼んだ響きが悲しくてアドレスを消す泣くな親指
春めいた今より過去がせつなくて胸には虚空 瞳になみだ
君の名を真夜中に探す淋しさにくるまりながら泣いてしまおう
好きだった二人ぼっちの春の日々独白ばかり空に帰す夜

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自然流通

自然流通
自然流通
深淵なる夜の
向こう側の空に
数多の風と雲を
数え上げ
ただ流れゆくまま
生きてゆく
在りし日の
あるがままに
あるがままの
自分のかたちで

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密会

密会
エイプリルフールが記念日
月夜に時雨に濡れたい
酸素の足りない発情期
薄目をあけたら唇に嘘
伝言板は暗号で挨拶
ご主人様は入退院
傷が疼く 脚を伸ばす
東京と京都との距離をSkype
情欲儀式は忍耐でkeep
沈黙は薔薇一本で饒舌
ボディレンタルの利用
イラつきの帝国は崩壊
了解。

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読み終えたら
いつか棄てられる本
例えば
本棚の片隅で埃にまみれて
タイトルが消えてたり
例えば
字の樹海に押し込められたまま
迷子になって泣き続けていたり
ましてや
ビニールテープで
ぐるぐる巻きに固められて
あの世に運ばれたり
そんな簡単なピリオドを
待ってたわけじゃない
もの言わぬあなたの
愛蔵書(こんせき)を旅するのが好き
一番好きなフレーズに
抱かれて眠るのが幸せ
あなたが もう
そのページを開くことが
叶わなくても
大切にしている行間に
私を挟んでくれたなら
文字の森の隙間から
一番星を見つけだし
薄い私を照らし出す
光に抱かれて眠りたい
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sugar

sugar
甘い声で囁いて
あなたは私を溶かすつもりね
銀のスプーンで愛憎喜劇をかき混ぜて
コップの底に残っているのは
あなたの寛容すぎる真心だけ
あなたが飲み干してくれたのは
先走る私を
零れないように
癒してくれる
薄いくちづけ
午後三時の
マグカップの中にはレモンティー
ちょぴり酸っぱい世間から
すくい上げてくれたのは
いつだって
喉に染み付く甘さとゆとり
柔らかな日差し
指先二本の恋に
掻き回されて
私は素直に溶けてゆくけれど
いつかあなたが
疲れたときには
甘やかして笑わせて
眠らせてあげれる
私になると誓うわ
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無題

無題
無題
私は焼けた砂場ではなく
夜中のブランコです
私は冷えたポカリスエットではなく
なかなか落ちない点滴です
父は冬の岩場ではなく
昔 井戸に置いてあった洗濯板です
母は向日葵ではなく
夕暮れに沈む太陽です
町の人は言います
「ああは、なりたくないもんだね…」
町の人は歩きます
私たち家族には
全然追いつけないスピードで
笑いながら
喋りながら
だから
カーテンを閉めます
耳栓をして目隠しして
家族仲良く暮らせるように
墓を掘りました
その墓碑名に刻んだのは
関係者以外立ち入り禁止
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方舟

方舟
愛していると憎しみは
燃える薔薇の孤独と棘
記憶の中のあなたに
恋い焦がれても
錆び付いた絆の扉は
赤銅の鎧を
纏ったまま動かない
枯れ果てた涙を
引き寄せる手段の言葉は
方舟にのせられたまま
紀元前をさ迷っている

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見送る

見送る
結婚は人生の墓場。
お母さんはなぁ、お父さんに騙されてんでぇ。仲人のおばさんがどうしてもって言うから、結婚したってん。
それまでお母さんはなぁ、大覚寺で生け花の師範を取り嵯峨流の看板も持っとる。
あんたにも、昔に見せたやろ。
お茶は裏千家一筋。
東芝で働いて、ずっと独身を通すつもりやったのに、お父さんと結婚したばっかりになぁ。
お母さんの体も人生もガタガタや…。
それは母にとって真実なのであろう
けれど
今 私の肩に片手をのせ
もう片手でズボンを掴み
バランスをとらなければ服が着られなくなった母
掴んだ肩にのしかかる
母の手のひらの悲しい重み
あぁ…お母さん
歌はじめ
歌人たちが華やぐあの異郷の地に赴く
安い服を着た背中の曲がった
白髪混じりのおばあちゃん
彼女の見送ったものは
何だったんだろう
私が 
今 見送った あの人は
一体 誰なのだろう

詩と思想4月号入選作品

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