パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間もひとり遊びをしている子供がいた。
 台車の棒にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。
 どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。
「おばちゃん、コレ開けて。」
 ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの、丸いボールの蓋を開けてと言う。
「ありがとう」
 女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。
 夕日は、傾きかけていた。
 ”この子の親は、どうしているのだろう・・・。”
 そんなことを考えていたとき、それを見ていた私の母が、
「あの子は、強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」
と、言った。
その時、女の子の母親らしき人が、
「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!」
と、女の子の手を、強く引っ張る。
 その子は母親の大きなお腹を擦っては、
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
と、言い続けた。
どうやら、母親は、妊婦らしい。
そして、換金所で働く母の話では、毎週二回、土曜日曜、女の子は換金所の前で、遊ぶ。
   【孤独から強い子になる。】
 母の一言が、頭の中でリフレインする。
 
 果たしてそうだろうか・・・?
 今度は赤ちゃんが生まれるというのに。
 赤ちゃんが産まれたたら、母親は姉になるその子の面倒までみれるだろうか。
 幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければよいのだけれど・・・。
 その子も寂しい。私もなんだかやるせない。また、パチンコでしか満たされないその子の両親すらも。
 
 いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。
 夕日はもう、とっくに沈んでしまったというのに。
 こぼれたパチンコ玉を見つめながら、
少女は自分にしか分からない唄を歌っている。
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冬の隙間

冬の隙間
冬の隙間
スマートには
生きれません
私はいつも
泥だらけの長靴を
履いているからです
偉いことなど分かりません
指先の感覚だけが
頼りです
笑われてなんぼです
けれど
自分の笑顔には
胸を張りたいじゃないですか!

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ひとつだけ

ひとつだけ
ひとつだけ
赤い花をひとつだけ
身体に隠した赤い花
ひとつだけをプレゼント
あなたのナイフで
花占いの遊びがおわっても
もとには戻らない
女の子の色
ひとつだけ
大切に契られた
私の身体の初めから終わりを
確かめながら
あなたは数える
私の忠誠心
涙を隠して
ひとつだけ
赤く咲く声
夜を裂く

ひとつだけ

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重ねる

重ねる
紅蓮の炎に燃え立つ
昼間の怒りを
黒い夜で鎮める
乾いた瞳に涙
汲み上げた水で
朝 顔を洗う
日が昇り太陽が
身体を焼き焦がす
日が沈み
濡れた風に身を晒す
囲まれた枠の中で
人生模様が
重ね塗りされて
濃さを増す
昨日より今日
今日より明日
怒り 悲しみを塗りつぶし
喜びを笑顔で照らしだし
一喜一憂の彩りの
重ねながら
人は
自分だけの絵を
完成させてゆく
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樹海の輪

樹海の輪
カラカラと糸車を誰かがまわしている
その糸車の糸に多くの人の指が絡みつき
血塗られた憎しみの爪をのばしたり
いびつな恋敵の小指たちが
ピリピリと過去の妄念に反応して
親指は絞め殺されるように働きながら
天に一番近い中指に嫉妬しながらも
糸を燃やそうとする
カラカラと糸車はまわる
それは乾いた土地であり
それは渇いた喉元であり
蜘蛛の罠に引っかかった蝶が
食いちぎられていく羽の墜ちる音(ね)
最期の 悲命(ヒメイ)
   *     *
  (カラカラカラカラ・・・)
   *      *
さっきから大きな毒蜘蛛が樹海を編んでゆく
その下を長い大蛇が這ってゆく
細かい切れ間から もう 青空は望めない
蛇の腹の中で元詩人(ゲンシジン)たちの群れが
溶けて泡を吐く
見えない空
地上にない文字
樹海にはそうゆうものたちが浮遊して
死人たちがそれらを夢想して
この樹海を成立させているのか
乾いた音だけが響いてくる
    
    *       *
  (カラカラカラカラ・・・)
    *       *
誰かが糸車をまわしている
けれど
その糸にしがみついた多くの紅い情念たちが
歯車を狂わせてゆく
糸車をまわしていたのは誰だろう
それは 樹海をでっち上げた白い骨の妄念
散り散りになった散文詩
痩せた木の葉たちが 風に吹かれながら
くるくる回り続け
重い陽差しの切れ間を脱ぐって
やがて 土に還る
      (カラカラカラカラ・・・)
(カラカラカラカラ・・・)
     神は
      呼吸をするのを
         やめたらしい。  

      ※ 詩と思想新人賞2012年 第一次選考通過作品

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世界の中心

世界の中心
悲しみを踝までに浸しては裸足で歩む触れたい背中
盲目の行方不明の両目たち夜を跨いであなたの夢へ
子守唄自分の為に歌っては涙を流すもうひとりの君
ただひとり私を信じてくれる人裏切りらないで夜明けの朝日
すぐそこに冬が来るから私たち肌のかたちが かまくらの熱
嘘つきと虚構と事実と小説と孤独と愛が詩人のスパイス
夜の闇静寂を滑り会いに行く私はいつかの御息所
箸が折れ携帯壊れヒステリーそんな私を畳んだ笑顔
いつの日もいついつまでも愛してるあなたはいつも世界の中心
 

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メモ帳

メモ帳
あなたにもらった皮表紙のメモ帳に
文字がかけないでいる
昨夜の喘ぎ声の悲しみに言い訳したり
今日私についた嘘について説教してみたり
明日出会う友人とセーラー服を着ることを
全て
メモ帳に語りかけているのに
文字にはならない
変わりに
涙が零れて
真夜中にクチュクチュ鳴る指から
水蜜桃が割れて溢れ出て
親友の彼氏のノロケ話を
スィーツにして
あなたのくれたメモ帳が
重みを増して
日常生活の私の一部になるように
無声の私が
沢山ページをめくっていって
本当のことを言うと
メモ帳は
たった3日間で
全て書き込まれ
私の胸のポケットで
心音に温められては
鼓動だけを刻んでいる

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秋空の海原

秋空の海原
とある田舎の早朝に
鱗雲は光を帯びて
金色の日常に
私のおはようの瞳(め)が
隙間に挟まったまま
泳げない
鱗雲の向こう側には
宝島があるのだろうか
太陽が隠し持ってる
宝箱を目指して
この町の午前六時半は
動き始める
昨晩の空からの訪問者は
夥しい水しぶきをたてて
はしゃいで帰ったので
草花は朝露の重さに
うなだれたまま
艶美な光の粒に
身体を洗っている最中
空には大海 地上には楽園
この張り詰めた
一日の始まりに
自転車に乗って
部活動に急ぐ
詰め襟少年も
地上から空に
宝島を目指す
水夫のひとり
自転車ペダルが回るほど
動き始める秋空の海
軽くなって行く私の足取り
そして東の空からは
まだ見ぬ向こう側の笑顔たち
やがて始まりの鐘が
晴れた空に響き渡るだろう
私の胸にも
あなたの空にも

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「嘘がまことでまことが嘘で…」
昔の誰かの舞台のセリフを
僕は何度も繰り返しては
嘘の言葉を川岸に並べて
石を積んでいる
或いは意志という頑な
もろい正しさを壊したり創ったりして
シナリオみたいに並べてみては
まことしやかな 嘘に 罪悪感の印しを
川辺の石に刻んでいる
その意志が 君に届くように
或いは 届かないように
胸の内すら確かめられずに
言葉は千年先の虚構に隠されたまま
僕の描く世界に 君を
連れ去るにはどうしたらいいか
伝えるインクの色すら
セピアに褪せて消えていった
「嘘がまことでまことが嘘で…」
何度もその言葉を
石に刻んで叩いてみても
君の「秘密」を暴けないのは
君が 川辺で
バベルの塔くらいの高さで
その石たちを積み上げて
僕は いつの間にかブロックされていた
(暗い塔の中で嘘をついて泣いていたのはどっち?)
川辺の石の印しを文字の形にして
君に当てはめようと
あるはずのない 「真実(まこと)」を探しては
僕は さまよい続ける
言葉を無くしたままで
目を閉じたままで
光があったことすら
知らなかったようにして

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名無し山

名無し山
その山に名はない
ただロープウェイを使わなければ
山頂には登れないらしい
私は麓まで居眠りをしながらバスに揺られ
終点のバス停から近くの
ロープウェイ乗り場で切符を買った
天候は妖しくなり
濃霧が頭と目を白濁させて気が遠くなる
ロープウェイに吊された赤いゴンドラは
しつらえられた柩のように私に用意され
時折迫る強風に曝されては揺れた
標高が高くなるにつれ酸素は薄まり
山頂の公園に着いた時にはすっかり
体温を奪われた
そこには巨大な蝋燭の形をした石塔がひとつ
誰かが何かを刻んであった
高名な僧侶が書いた梵字だったか
定かではない
霧は晴れないのか…
私は山頂で消えたり現れたりする人影を追ううちに
ゴンドラに帰る術を失った
なぜこの山に登って来てしまったんだろう
自問自答を繰り返す私に
どこからか幼い子供の声が降ってきた
「お姉ちゃん 僕に名前(いのち)をちょうだい。そうしたらこの山を崩してあげるから…」
その山は今はない
ただ割れた境目から
溶岩が血の塊のように
どろり どろりと
うなり声をあげるように
溢れ続けた

詩と思想11月号入選作品

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