淋しい傷口

ほっといてくれという淋しさの記号と
かまって欲しいという悲しさのベクトルが
イコールする東京の中央線の真ん中で
指先と指先で心中したかったのに
大阪に持って帰ったのは
あかぎれた人差し指だけの傷
昼間を走る新幹線と
夜間を走る高速バスに
向き合う二人の私
真昼の月に梟が
夜目を光らせて
双頭の月を眺めていた
人差し指の赤い切り口に
雪の白さが染みる夜
こんな日に
私は
黙って産まれてしまったのだ
母の途切れる寝息と
白内障の猫の瞳に
責めらて
都会の痛みを抱いたまま
真っ直ぐ
あなたと指だけつないで
どこまでも揺れて
逝きたかったのに
私は また
もう一つの朝日の前で
乾いた血を舐めては
濡れた顔のまま 空を見上げる

抒情文芸 151 夏号
清水哲夫 選    選評有

カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。