月美

月美


月美
お前の煤けたチョークのような肌の下にも
小さな双つの胸のふくらみの内にも
古から伝わる「女」という血族の血が
朱(あか)く 渦をまいているんだよ
だからお前はここに来た
暗い病室を飛び出して
病の茨をすり抜けて
化石になった僕の部屋で
今 白い花を咲かそうとしている
月美
おいで
お前の願いを叶えてあげる
お嫁さんにしてあげるよ
シーツはいつも冷たくないことを
暗闇にはやさしさがあることを
苛まれる悦びを
鬩ぎあう愛しさを
ほどかれない激しさを
爪の先まで 教えてあげるよ
覚めないおとぎ話を囁いてあげるから
命の芯まで 自惚れたらいい
子猫のような悲鳴をあげて
あとは波にさらわれたらいい
ごらん
海底に眠る君の体から透明な茎が
月に向かって伸びてゆくよ
月美
哀しいけれど
お前はそれを見ずに短い夏を逝く
お前が咲かせた花は
月下美人
儚さに背を向けて
薄明かりの部屋で
小さく悲鳴をあげたような花
カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。