桜並木の門をくぐりたがる胸は
薄紅色の血脈が身体から飛び出し
誰かの内で鼓動が響き合う
桜の花びらが散って腐敗していく頃
土足で踏みにじる運動靴は
汚臭を発する
太陽が焦がれる高嶺の花は
異常気性なうえに
当たらない天気予報のように
いつも気まぐれ
桜の葉が汚濁にまみれ
排水溝に溜まっている
伸びすぎた前髪と後ろ髪
もっと綺麗に整えたくなった
サロンに行く途中のコスモス畑は
色鮮やかで目移りせずにはいられない
桜の木の静かな心音を吹雪がかき消す
雪が続くとまた春を振り返りたくなる
思い出が美化される
海綿状だけ見ていたい
桜の蕾が少しばかり紅色に染まる頃
ぬるくなったこたつから這い出て
来るべき春の扉のドアノブに手をかけたとき
台所の机には
冷めきってのびたしょうゆラーメンと
長持ちしすぎた蜂蜜漬けの梅干しが
残っていたので
泣きながら食べた

カテゴリー: 02_詩 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。