隣の芝生が青いので

となりの芝生が青いので
ちょっと軽くやいてみた
となりの芝生が青いので
火炎瓶も投げ込んだ
それでも芝生は生えてくる
長く庭に生えてきた
枯れた芝生は威張ったり、
後から来た芝生は自慢たらたら、
私の庭にの芝生だけでも、
借り入れ手入れが大変なのに
となりの人が私の芝生が青いから
焼きが回って火を着けた
となりの芝生が青いから
平和がひとつ焼け野はら
となりの芝生が青いから
喧嘩にくれて日が暮れる
となりの芝生が青いので
となりの芝生が青いので
みんな
となりの芝生が青いので

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泳ぐこともできず
伝える手段もなく
ただ与えられた囲いの中で
浮遊している、
泡のようなもの
    ※
失くしてしまえば
過去にしたいと
遡っては 身を護り
忘却の波に運ばれて
美化される
    ※
終わったと思ったモノが
尾ひれを付けた噂になる頃
私はやっと 汚水の中で
独りになれる

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不在

夕暮れ時の寒い裏通り
透き通るくらい引き伸ばされた薄軽い 
ビニール袋の中には食材と
もう片手には人の身を覆い隠せるほどに巻かれた 
トイレットペーパーを持ち
返事のないアパートに帰る
        ※
生活は
口から入れるものとその先から出るものを
拭うものがあれば
トイレで流せばやり過ごせる
毎日は、つまらない、それでいい
詰まってしまえば
見えないところまで見えてしまうだろうから
あとは目を瞑るだけ
眠ってしまえば気が付かなければならなかったことも
やりすごせるはず
        ※
   それだけ簡単なことを
   やり過ごせない暮らしの中で
   トイレで毎日流していたものが  
   洗濯槽にこびり付いていたり
   流し台から覗いていたり
        ※
眠ってしまえば
知らないふりをすれば
やり過ごせることが
できないとき 私は不在
        ※
朝、ぽつんと ひとり置手紙
滲んだ走り書き、一行のゆくえ
「私がわたしを生きられないなら私から出て行くだけ」
        ※
一行の、その先に運ばれて 
わたしが私に手を振った

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し、についての考察

母のことを思う
始発のプラットフォームに立つ時は いつも母に一番近づく
故郷を離れてダウンロードした新曲が 終わらないうちに
新幹線の窓の田畑や山の緑は速度に燃やされ
灰色の街が 繰り広げられる
終着駅で私は母を置き去りにして歩き出す
生きるために邪魔で必要でかけがえのない人を
          ※
母の姿を思う
父の帰りたかった家のとこか一部を必ずきれいにしていた母
ハタキや雑巾、高い所は箒や柄の長いクリナーで汚れを落とす
けれど、研いても、研いても、思い出の取れない家
付喪神も呆れるほど住み着いた家のほこりは取れない
 (立つ鳥跡を濁さずちゅうてな、
 (私のこないな姿、しぃにならへんか、
笑う、母の内。彼女は自分の内臓を空にしていく
遺す者、遺され者の、うち、を浄めていく
し、に近づいていく。笑いながら、笑いながら
花が咲く季節に、萎れようとするように
          ※
春の東京は漂流民族
桜前線に乗った引越センターの車と、新分譲住宅のチラシ
駅から徒歩五分の立地条件、新物件には売約済みの赤マル
何世代もこの土地に親と住む人いるのかな
手を繋ぎ合う幼稚園児とママ、年老いてもその手を握ってやれるの
なんてことに横目をやりながら自分を責める
 (私東京なんかで住んだら、死んでしまうわぁ
呟き続けた老いた花は、もう、末期の水しか要らないといった
          ※
新たな新居、新生活応援の大看板
寂れて止まっていく家をかかえた私たちには
宛もない掃除が残っていて
何か黒い連鎖から離れられない二人
都会はテレビの画面から桜前線を伝えていて
前線の通過した家に残された花びらはゴミになるのだと
呟く母の肩を 抱き寄せる

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冬の山

この冬の途轍もなく 
淋しい苛立ちのようなものを
陽に翳してみると 詩にならないか
胸の真ん中を刃で抉り取った
凍えた塊のようなものを 
お湯で洗ってみれば
言葉が染み出てくるのではないか
でもそれは ひどく恐ろしいこと
千年万年降り積もった山頂の雪が
一気に雪崩落ち 山の形を失わせるほどに
恐ろしいこと
人は涙ぐんだ山を見て 「山」とは呼ばない
山頂に冷え切った 夥しい怒りを抱えて
胸の真ん中にある修羅の道すら明かさずに
山は山の形をして 山のままで 陽に挑む
千年万年降り続ける雪のことなど
誰にも告げず
枯葉一枚にも愚痴をこぼさず
この冬一番の途轍もない淋しい苛立ちすら
武器にして
山は今、春の空へ 
沈黙を 突き刺す
抒情文芸選外佳作

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夜の石

夜、池に石を投げた人がいて
石に私の名前が書いてあったと噂した
池に波紋が広がって
石を投げたのは私だと
池は被害者面して 波風立てた
 (名前が書いてあるそうじゃないか
 (お前の名前のようにきっと汚い字なんだろう
池に呑み込まれた 証拠品
私の意志だという 物品
私はいきなり池に沈められ
口がきけなくなった
夜、池は口を開いて
私を沈めた、と
石を投げた人に報告すると
投げた人は 静かに嗤った
(samusing24  掲載作品)

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望遠カメラ

高級カタログで見た望遠カメラ
小田急線で持っている人を見かけて
少しだけ羨ましかった
ある日 望遠カメラをくれるという人が現れて
私は有頂天で貰い受けた
ピントの合わせ方も手つきも 儘ならなくて
もどかしいだけの品物だったけど
ずっしり重いボディが程よく 腕に馴染むころ
女郎蜘蛛たちの罠にかかった獲物の言い訳や
背丈を競い合うセイタカアワダチソウの企みや
顔のない都会の上面くらいには
ピントを合わせられるようになった
私は望遠レンズが見せる景色に夢中になった
見えなかったもの、知らなかったこと、
美しいものと、汚いもの、
何もかもが新鮮で 私の目はレンズが映しだす
正義の言いなりになった
もっと高い所へ、もっと高い所から、もっとすごい高みへと
焦点を合わせようとした時 足元が何かにつまずいた
─ 老いた母の死体だった
壊れたカメラを抱いて
ピントのずれた頭と焦点の合わない目をした私が
瞳孔を開いたままの母の目に 写し出されていた
季刊誌PO164号 掲載作品

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くずのつる

       ※
 (君、あの鞄は君に似合うが荷物になるかもしれない。
 (なぜなら、荷物とわかるには一度持ってみなけりゃわからない。
 (鞄がお荷物とわかったならばただのクズだよ。
           ※
抑圧の、
その抑圧の、
押しきれない叫びは
その時、確かに頭を壊した
立ち止まらせる世界の二元論の内に私の居場所は無く
立ち進む二足の靴の歩みは
目の前の深みへ、その前の、より深遠なる深みへと招き寄せる
(どこかでサイレンの音がする・・・
足先は水を拒なかった
生きること、生きていること、生きてゆくことが
こんなにも寒いものだと
身体に教えてくれた二人の少女の姿は
夏と冬の池にカタチを滅ぼされたまま
水に浮かんで背を向けたままで顔は閉ざされた
(どこかで響くサイレンが・・・
(夜の号泣にも似て、朝の警笛にも似て、
浸かってしまえばよかったのだ 私など
もっと深みに沈んでしまえ 頭など
けれど、
くずのつる、
老いて乾いた細いくずのつる一本に芽吹く友の悲涙の尖り
その悲愴なまでの憤りが私を時代の群れに還らせる
(まだ、戦えと、まだ闘えというのか、
(捨てられたものよ、また、打ち捨てられるために、
(―――――――へ、と、
くずのつる、の、クズとして
来るべき春に立ち還れなかった骸の眼たちを一筋握りしめ
もはや唇すら動かない私をのぞき見る、くずのめ、
惨烈を極めた死人への報復には 鮮やかな生への執着を餞に
生ききる、という執念の覚悟に他ならないと
私の内にながれる炎を見破る、くずの、・・・、くずの、め、
面影の過失が記憶を横切り とおい惜春の痛みと共に
その深みを掘り当てれば
まるい過去が嗚咽になって 堰を切って流れ落ち
くずのつるを握った手の甲を濡らす、小さな水たまりに
顔のない真っ赤な女の子が 二人泳いでいる

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夜の水

夜、蛇口からボトボトと鉄板をたたく音がして 怖くて締める
私の内で溢れ出る苛立ちや不安、
皿を洗った後の 油や洗剤を含んだ水は
どこまで汚され どこに流れて行ったのだろう
じゃがいもの皮は 三角ポストに寝静まって
にんじんは 赤黒く収まって
茶袋は まだ温いまま膨れ上がって濡れている
それらが まだ遠くにない隅にあるという 小さな安心感を匂わせながら
私が洗って流した水は 予想もできない場所に行き
変わり、捩じり、くねり、曲り、踊り狂いながら
どの蛇口からひねり出された水であったのか、覚えていられないほど
汚水と混合して、また濁水にまみれ、汚染水と呼ばれ、色が臭う
夜、蛇口を強くねじ動かす指があったこと
それから私はあらゆるものに触れ、モノを洗い流し、
自分が汚れ続けれるほどに
仄明るく 透明に澄んでいたことなど 今更、知る術もなく
だだ、押流されるままに 辿り着いた夜の果て、女の、熟れの果て
ボトボトと鉄板を打ち叩く 私の澄み切っていた苛立ち、
三角ポストのモノたち全て 水で浄め浸し、そして薄汚れ、
その横側を、ただ通過していかなければならない私を見る、
濁った眼をした、女の群れ
排水溝では裁かれない叫びが 今夜も台所からあふれ出て
誰にもすくえない 赤黒い夜を
今、自分の手で 終わらせる

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汚名/恋人の変換

片付けられない部屋に
終われない言葉が散らかって
絶句。
「。」とは、簡単に収納されてしまう私の居場所 
膝を抱えて座り込めば 隙間から立ちのぼる私の苛立ち
そこからはみ出でくる消化できない炎を 自分で眺めて
火事になる前に 悉く鞄に詰めていく、
また、苛立ちが おもい、荷物になる
服と下着は登山用リュックに詰めて
食器やコップは全自動洗濯機でまわして
私の頭は冷蔵庫で冷やしながら
本棚に役に立たない言葉を並べていく
この部屋には何も咲かない
恋人が使用人に変換されてから
名前は 響くことを忘れてしまった
私は片付けられない部屋に 片付けられていく
毎日、毎日、すり減っていく 私の名前は
トイレットペーパーの「カラカラカラ」になった
白く長い舌は 虚ろな声を発しながら
昼間の採光を巻き取り 夜の濃度に舌を出す
ホワイトボードに書かれた誰かの名前
丸い文字のその人は
窓辺から外され ひっくり返され 
呼ばれることなく 片付けられて
拾った者の名札や切り札になった
((→ 「。」ここ。/まだ、ここにいるのに。
     → 「。」ここ。→ /まだ、/→ 。ここにいるのに。))

檻の中に、ピリオドがあるだけの、「。」

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