パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間も一人遊びをしている子供がいた。
台車にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。
 どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。
「おばちゃん、コレ開けて。」
 ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの丸いボールの蓋を開けてと言う。
「ありがとう。」
 女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。
 夕陽は傾きかけていた。
‘‘この子の親はどうしているのだろう・・・。‘‘
そう考えていた時、それを見ていた私の母が、ふと
「あの子は強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」
と、呟いた。
 その時、女の子の母親らしき人が
「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!!」
と、女の子の手を引っ張った。
 その子は母親の大きなお腹をさすっては
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
と、はしゃいだ。
 どうやら母親は妊婦らしい。
そして換金所で働く母の話では、毎月二回、土曜日曜は、女の子は換金所の前で遊ぶ。
「孤独に強い子になる」
 私の母の一言が、頭の中でリフレインする。
 果たしてそうだろうか?
今度は赤ちゃんが産まれるというのに。
赤ちゃんが産まれたら、母親は姉になるその子の面倒まで見れるだろうか。
幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければいいのだけれど。
 その子も淋しい。
 私も何だかやるせない。
 また、パチンコでしか満たされないその子の親すらも・・・。
 いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。
夕陽はもう、すでに沈んでしまったというのに。
 それでも少女は、自分にしかわからない唄を歌っている。
--------------------------------------------------------------------------------
散文(批評随筆小説等) 唄 Copyright 為平 澪 2009-07-25 05:28:53縦
 

カテゴリー: 01_掌編小説 | コメントする

ハンマー

ハンマー
おいらの家は解体屋だから、難しいことはよくわからねえ。
 今日も親方に呼ばれて仕事をする。
 扉を叩いて壊す。
 瓦礫をトラックに積む。
 そうしているうちに、隣近所の女の子が一人、おいらに向かって喋りかけた。
「おじさん。おじさんは、どれだけの思い出を壊してきたの?その家にはある家族が住んでいて、犬を飼っていたよ。おばさんは陽気で近所の人気者、おじさんは大工で家を立てる仕事をしてたよ。その夫婦には子供がいて、子供はお嫁さんになって、また子供を産んだよ。本当に幸せな家庭だったけど、いろいろあって、この家を手放さなきゃいけなくなったの。この家のおじさんは出て行く前日、昔の思い出を語っていったよ。前の池でジャコ取りをした事、大工として腕が認められたこと、一人前になっておばさんをお嫁さんにもらって、この家を建てたこと、子供を産んで親になることの喜び、帰ってくる家の灯りのありがたさ。近所の人の温かさ、孫に帰る故郷のない事実の辛さ。自分の責任のなさ、それらをみんな言ったら、ただ黙って泣いていたよ。それがここの主人の最後の姿だった・・・。」
「・・・・・・。」
「おじさん。おじさんに家庭の事情とか、現実の厳しさなんていいたいんじゃないんだ。
 ただ、ただね。家って言うのは、居場所なんだよ。おじさんの持つハンマーは、それを知って使っているの?」
「・・・・・。」
「ごめん。責めてる訳じゃなくって、ただ、見晴らしが良くなりすぎて、私、とっても悲しかったの。
そして、知ってて欲しかったんだ。同じハンマーを持つ人間が壊すことも、創り出せることもできるという事を・・・ちゃんと、・・・知ってて欲しかったんだ・・・。」
 おいらには難しいことはわからねえ。
 今日も親方に言われたように仕事をする。
 ただ違うのは、右手のハンマーがいつもより少し重いこと。
--------------------------------------------------------------------------------
散文(批評随筆小説等) ハンマー Copyright 為平 澪 2009-07-25 06:03:30縦
 

カテゴリー: 01_掌編小説 | コメントする

About me

このサイトについて


ここは、為平 澪による、小説、短編小説、掌編小説、詩、短歌、携帯写真+詩の文章サイトです!

Author≫つるぎ れい

カテゴリー: 20_aboutme | コメントする



雲行きは
やっぱりあやしい
夏の恋は
稲妻のように
私の心を痺れさせたまま
遠い子宮に隠れてしまった
私は
期待の灯火だけ
残して
今日も
独り
暗闇に沈む

カテゴリー: 04_携帯写真+詩 | コメントする