ラプンテッエルの青い薔薇

ラプンッエルの青い薔薇
(長い長い城壁に閉じ込められた時間
         私は青い薔薇を花言葉ごと身ごもりました)
塔から長い髪を垂らしたラプンツェル
王子様は安易に言う
「君を救い出すためにこの城壁を登り切ると誓うよ。」
髪の長いラプンツェル
「王子様、嬉しいわ、早くこの錆びたお城から私を逃してください。」
プラチナ銀の髪をダラリと垂らしして
いつか いつかにと夢見た脱走物語
王子の重さに 頭皮から血が滲み出てプラチナの髪は
インクが滴り落ちるように じわりじわりと赤に染まる
血塗られた髪を満月が艶やかに照らし出し
恋の痛みを 深い森に隠しながら
ラプンツェルは 血を流す
白く長い指が籠城に届いたとき
彼女は片手ごと髪と一緒に王子を斧で切り落とす
「王子様・・・遅すぎました。」
「王子様、貴方はそんなにも逞しくしなやかな腕を持ち
なぜ「今」 告白されるのですか。
私は待ちました。貴方の一分が千年になるほど恋い焦がれ
私は狂った花を身籠もりました。
その間、魔女の嫉妬に犯し続けられ 腹の子を裂かれました
彼女に赦しを請い 罰を受けるように愛されました。」
「そして お腹に ブルーローズを宿したのです。」
貴方の声
    貴方の眼差し
          貴方の美貌
               貴方の欲望
                   貴方の・・・・
貴方の全てを見透かす私の腹部の青い薔薇が
「遅すぎた裏切り者は殺せ!」
と言って咲くのです。
王子様、なぜ「今」だっのですか?
魔女は優しく何度も私を殺めた
魔女は淋しさの刃で私の胸を切り開いた
魔女はその度に本気で私の血を抉り啜った
魔女は魔法すらかけなくとも私自身を魔法にかけた
その壮絶な孤独に青い薔薇が千年かけて宿りました
空っぽの花言葉そのままに・・・。
王子様
私は貴方の生涯よりも
重い花を身籠もってしまったのです・・・。
私をいつか捨てる貴方、裏切り者の貴方には
すぐに伸びて軽く切り捨てられる髪がお似合いです
赤い糸にくるまったまるで繭のようになった貴方は
そのままお逝きなさい。
千年経ったら会いましょう
羽化した蝶になった貴方がこの窓辺へ遊びに来るなら
私の咲かせた青薔薇の蜜の甘さを確かめに・・・。
ここまでおいでなさいませ。
その時髪は何センチ伸びているのかしら・・・。
そして青い薔薇は、赤く咲いているのかしら・・・(笑)
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喪失

喪失
真夜中の蛍光灯が爛々と輝く頃/あなたはマンホールから地下道を通って/笑顔を貼り付ける/まるで今日一日を全て伝えたい新聞と広告を抱えて/上半身を伸ばし下半身は溝水につかったままで/昼を訪ね歩く
その悲しみを溶かしたように/空が涙を流す/痛みを堪えた靴底が/鈍色の音を発する度/愛に濡れた大地が/枯渇したあなたの瞳を/優しく覆うだろう
黒い喪服を着た少女が/白い錠剤を手渡して/あなたにこういうのだ/あなたの目には一雫の希望のカタチもない。ただあるのは肉体に時間があるだけだ。/と
あなたは/ばらまかれた/一粒の絶望に/征服され/どんどん/白くなり/透明になり/やがて/見えなくなる

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砂時計

砂時計
さらさらと
上から下へ
流れる調べに
砂浜から
誰かの息遣いが
聞こえる
たった五分の砂から
白くこぼれていくものたち
遥かな国の物語
ではなく
隣の老人の寿命や
誰かが海から流して
砂浜へ流れ着いた
人骨のようでもあり
この棺のなかで
上から下へ落ちては
呼吸するものたちを
ひっくり返して
甦り死んでは
生まれまた老いて逝く
旅立って逝った人々が
唯一
五分間
さらさらと
砂漠を旅してる
果てしない
海の藻屑となった
タイタニック号の調べ?
いいえ
一ページ完結の
隣のおばあちゃんの
悲鳴の分だけ
砂が零れた

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積み木崩し

積み木崩し
さようならと
手を振るときは片手で別れ
深め合う時は両手を添えて
握手
固くつなぎ合わせた
それぞれの手を
重ね合わせて
塔ができたのに
さようならとひとりが
片手を振れば
積み上げられた
みんなのジェンガ
一ピース欠けて
音をたてて崩れ果てた
余りにも高く積み上げて
重ねていたのに
「さよなら」
の音が轟然と残響して
今までの砦は
片手で振られて
私は重さに気が触れた
「さようなら」
あぁ、そう言って
一抜けたのは
誰だっけ
重ね合わせられた手の数々を
十露盤ばかりで
はじいては
計算高く一引いたのは
ずる賢いあの人たち
ではなく
もしかしたら

「さようなら」と
手も振らず
雨に降られた夜遅く
「サヨナラ」と
ぽたぽた
デジタルな文字で
黒く塗りつぶした
気が触れたのは
どのピース
崩れ落ちた積み木は
だれが拾い上げるの
知らない
知らない
知りたくない
真っ白な文字は
もうかけないし
ただ
ひび割れた積み木が
転がっているのを

拾えないまま
ずっと見つめている
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私の神様

私の神様

生ぬるい手ぬるい愛ならいらないわ 目をくりぬいてあなたに忠誠
淋しさに淡き色を塗り重ね あなたの全てを汚してみたい
眠れないあなたの為に子守歌 辛くはないわと涙を流し
信じれば信じるほどに血を流す あなたが好きな私のはらわた
上の句で下の句を裏切るよう 教えてくれた私の神様
笑いあい愛していると囁けば 毒薬入りのワインで乾杯
いつの日かあなたの横で泣いたなら 其処で光るジャックナイフ
この恋が実ることがないように あなたを殺す私を殺す
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熱帯夜

熱帯夜
身動きも取れぬ程に慕いしは伝える事すら叶わぬ恋人
汗ばんだ額にどうか接吻を髪をなでて指で溶かして
呼吸すら赦されなくば我が首に噛みつきたまえ戒めたまえ
我が身をば生かし滅ぼす君の愛熱にうなされ焦がれ焦がれて
甘き声幾度幾度も血の中で廻る罠と優しき目眩

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月美の涙

月美の涙
月美の涙
海底に眠る君の身体から透明な茎が
月に向かって伸びてゆくよ
月美
悲しいけれど
お前はそれを見ずに
短い夏を逝く
お前が咲かせた花は
月下美人
儚さに背を向けて
薄明かりの部屋で
小さく悲鳴をあげた花
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小詩  二編

小詩  二編
【眠り】
記憶は青に染まり
充血した日常に
瞼は沈む
ゆらゆらと
独りきりで船出する
その出航先に
宛はない
霧の中で
私はわたしの名を
失った
空から銀糸が
垂れ下がる頃
私はわたしの名前を喚ばれた
「カンダタよ、這い上がれよ」

【おやすみなさい】
遠い所へいくんですね
いいえ
夜には会えますね
遠い所へいってらっしゃい
いいえ
そこがあなたの帰る場所
遠い所を彷徨いなさい
あなたが
望むあなたになるまで
おやすみなさい
記憶の街で
会いましょう

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旅人

旅人
夕暮れ時を切り取った
一枚の写真から
行き交う人々の群れ
一日の終焉の延長先で
約束された夜が
静かに窓辺へ降りてくる
コンクリートに入った
マッチ箱の灯火を
こすっては 灯し
こすっては 灯し
箱の中から一本ずつの人々が
平等に差し出された腕(かいな)に抱かれ
ゆりかごの中で旅をする
ゆれる眠りの森の奥で
その腕の柔らかい導きに
今日の疑問符を投げかけながら
空白のノートに落書きをする
明日までの冒険
おやすみなさい
空の巨人
灯火が静かにひとつづつ消えてゆく
まるでそれが
当たり前の儀式であるかのように

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青春

青春
壊れ物
取り扱い注意。
時に黒く
時に青く
時に激しく
時に弱く
私は楽譜に脅えるモーツァルトであり
私は無礼な孫悟空であった
私は食に群がるハイエナであり
私は独りさ迷う野良猫であった
そして 絶えず
夢と街の区切りを
転がり続ける病葉であった
黒い雲間から
雨が何度も窓を叩き
優しい風が
ドアを開けようとしても
頑なに拒み続けた
ポキリ、と
風雨に耐えきれず
窓辺の梢が折れる音を聞く頃
いつの間にか
考えるだけの葦になっていた私は
河辺に青白く灯る
ほたるのひかりに
今年も 堪えきれず
涙を流す
忘れ物
取り扱い注意。

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