生きることは
淋しいことだ

男は言った
女は
愛された後は
死にたい

直ぐに逝った

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惜春

惜春
羽化する
蝶の
ぬけがらたち
寄せ集め
寄せ集め
淋しい

割れる
集団の骸

残酷に
羽たちが舞う
主体性も持たずに
ただ
季節の
言いなりに
顔を合わす
ひび割れた
故郷の家に
振り向きもせず
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はぐれる

はぐれる
それをして楽しいですかという人に楽しいですよという寂しさ
暗闇に電球の灯りひとつだけ世界に響け携帯の指
悲しみを足しても割れぬ性格を瞳を閉じて飲む錠剤
悴んだ指先ひとつ燃える火を怒りと呼ぶな号泣と呼べ
朝が来るいつものように朝は来る起きてる夜に私は亡霊
静寂に包まれ身体はコチコチと骨を削る音(ね)時計コチコチ
うまくやれうまくやれよとよわたりをうらもおもてもあるいてわたれ
置き時計短針長針ずれてゆくそんなふうにはぐれ外され
僕の声叫んでみても憎しみが飛び出すだけの冬の空き部屋

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抒情文芸 146号 春 小島ゆかり 選  佳作短歌

それをして楽しいですかというひとに楽しいですよという寂しさ
抒情文芸 146号 春小島ゆかり 選佳作短歌

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携帯を濡らす

携帯を濡らす
あなたの為に携帯を濡らす
秋の力ない弱い日差しから
聞こえるあなたの
柔らかで 穏やかな声が
枝枝の葉を 全て色づけて
あとは 風に散りゆく運命を述べたから
あなたのいなかったモノクロの世界から
この世界の美しさを 文字で彩って
私に言葉に直して 声に出してくれた人よ
あなたが 時の風に連れ去られても
同じ木に寄り添った
葉たちのことを思い出して欲しい
まだ
残響するあなたの
穏やかな哀しい非命に
携帯の画面を濡らすことを
赦して欲しい
この携帯が あなたの墓標
もう だれにも
あなたを見せたくはない
わたしは 涙に濡れた
ディスプレイを閉じて
平らな器に 水を貼り
静かに 携帯の
息をとめるように 
あなたを 沈める

抒情文芸 146号 春
清水哲男 選
入選作品

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背中

背中
男が背中を見せたとき
女なら 赦されたと
想いなさい
その男を刺す権利を
授けられてしまったと
男が背中を見せたとき
女なら 黙ってついて
行きなさい
彼の残した足跡に
自分の靴形を
残せるよう
男が背中を見せたとき
女なら 涙を流して
あげなさい
孤独が彼を
殺してしまうと
背中は黙って語るから
目が聴いてしまうのです
子供の嗚咽
夜の潮騒
最期の寝息
私は 触れた
彼の背中

狂気の始め

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一番最期に死ぬ人

一番最期に死ぬ人
一番最期に死ぬ人は、一番勇気のある人です
良い人ほど、早く死ぬ、と いうのは嘘です
一番始めに死ぬ人は、残された人に見送られる幸せな人です
沢山 お世話になった人の行く末も案じながら、死んでゆく
それは、悲しい未練話のカタルシス
一番最期に死ぬ人は、一番最初に死んだ人を見送って、
それが昔 憎んだ輩であったとしても
それが、騙された女や男であったとしても
妙な 仏心に浚われて
歯を食いしばって、死んでいた敵や味方のために泣く
人の為に泣ける人
一番最期に死ぬ人は
多分 誰にも 泣いては もらえない
一番最期に死ぬ人の
未練を 引き継ぐ者もない
一番最期に死ぬ人は
そんなことは
昔から 覚悟しきっていたのだから
死んでも死にきれない強い人
悪人の方が長生きするなら
悪人はもしかしたら
最高の善人
だから
みんなで
大悪人を競い合って
一番最高の善人の為に
今 涙を流してあげてください
見送るひとが 見送られる
病魔は必ず 忍び寄る
だから みんな 悲鳴を上げながら
悪人を目指す
痛みに悶えて
古傷を世間の風に晒されて
それでも なお、私はいう
君たち 全て
人を見送る
最期の独りであれよ と

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誕生

誕生
波の狭間を 純粋とあそぶ
十五夜の夢を視ていたアコヤ貝が
口から小さな あぶくを吐く
淡い痛みから 海底に
仄かな焔が ともる
母音のつづきの淵より
真珠がこぼした つぶやきが
空へとのぼり
みえない星が
独り、
王者の号令を轟かせ
一日だけの 軌道を渡る
星を見上げていたアコヤ貝は
真珠色の焔を見送ると
しずかに 沈んで逝く
音は波に消されて逝く
記憶は 海にのまれて逝く
そして
ひと、は
みな
貝であった
過去に 泣く
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盛る、ためではなく
抱える、ための
飾る、だけでなく
魅せられる、だけの
器。
質素で
小さく
柄もなく
高級レストランなんかに並べられたら
灰皿にされてしまうような 私の器
その煙草の煙から臭いを かぎ分け
多くの人たちが含んだ唾液を 進んで含み
吐き出された言葉を 呑み込み
呑み込んだ沈黙から 学び
より深く 底を押し広げる 私の器
 私が釜飯屋の弁当箱だった時代
 下町のおかみさんの人情話が
 おちゃらけた色で詰められた
 私が旅館の分厚いガラス皿だった時代
 少し背伸びしたおじさんの
 忘年会のよもやま話と馬刺しをのせて
 テーブルに運ばれた
 私が都会で灰皿だった時代
 薄汚く罵られ 火を押しつけられた
 時には亡骸になった灰に 
 夜 涙を流す人もいた
人と人との間に置かれる 私の器
呼吸を 数えるだけで
視線を 感じ取るだけで
温度や距離を 計れるような
愚痴を受け入れ ほろり涙を受け止め
空っぽで 綺麗にしておいて
いつでも人に 使って貰えるように
身の丈に合う大きさで
せっかちと おせっかいを 繰り返し
赤恥だらけで 赤茶けた 私の器
盛る、ためではなく
抱える、ための
飾る、だけでなく
魅せられる、だけの
やがては
人ひとりの人生を背負えるだけの
そして いつの間にか
月日に 優しく欠けて逝くような
器の私。

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詩集

詩集
彼が死んでも 文字は残るだろう
彼が忘れられても 詩は語るだろう
彼に会ったことはなくても 彼の匂いはするだろう
今 ベッドで白い天井に向かって
彼は文字の幻影を追う
静かな部屋の彼の息遣いから 溢れる歴史
眠りの奥から 澄んだ瞳に涙
彼が 辿ってきた真っ直ぐな一本道
彼の道を ひとつずつ 寄せ集め
デッサンする
デッサンする
これが
彼の肖像画
これが
彼の詩集のつづき
そして
私は まだ書けない
彼が ニタリと笑う
最期の一行。

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