宝地図

私のボロ屋に宝物が埋まっていると
青い鳥が言いました
けれど その場所を
掘って出てきたのは
さっきまで
必死に鳴いていたはずの 青い鳥
青い鳥が赤い鳥になって見つかりました
宿主が言いました
青い鳥は赤い印になって
お前に 「居場所」を
作ってあげたかったのさ
赤い鳥はね
青い鳥だった頃からずっと
お前に遺せる宝の場所を教えていたのに
どうやらもう 力尽きて
本当の我が家に 帰ってしまったようだね
世界地図、どんなに大きな世界地図を広げてみても
もう、私の家は見つからない

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産土の母

目を開け未来開けと狛犬が口から発する「あ」から「ん」まで
早朝の神楽太鼓が一を打ち旅立つ時ぞと背中を押せり
産土に護られ生きたらこの町の千年杉の大きさは母

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月蝕

月の名を知りたいなら 半月の夜、その裏側へ行きな
ただ、月の本名を知って帰ったものは「し」と
半月の文字になってしまうことだけは確かなのさ
誘惑されたいなら 満月の色を知りな
嵐の前の赤い目玉の月に魅入られて
盲目になった人間は 必ず
満月と同じピリオドでおさまるからさ
憧れが欲しいなら 三日月に爪を伸ばしな
届かない独占欲が 爪の先に点ったまま
とどまって いつまでもあんたを焦らすだろう
会いたい人を呼ぶときは 新月に
闇に紛れて 二人で月の袂まで
足を滑らせてしまうから
愛すべき月 
私の名 私の痛み 私の半分 私の横顔
狂った私の裏側を 覆い隠す真夜中の太陽よ
今夜あなたにそのことを 耳打ちするまで
いつまでも 私は私を 侵食する

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インナーチャイルド

私が抱きしめるあなたは
母に抱かれることのなかった あなた
あなたが私を抱きしめて泣くのは
私の中に自分を見るから
言葉を 教えてあげてね
今は母に捨てられて世を憎んだ
上目遣いの人形でも
柔らかさを 伝えてあげてね
人肌の温みが 今のあなたにも
伝わっているということ
上目使いの人形に
歩き方を教えてあげてね
ここには道はないよ、と
穴を掘ってしまう前に
      *
育ってゆく インナーチャイルド
陽を浴び喜びに溢れ 水を飲み干し浄化は始まる
けれど
私の中の私が 母と同じ嫌な顔をする
 (トマトを育てたはずなのに、黒いナスに育つなんて
 (やっパリお前も父親似の 裏切り者ね
お母さんの中のにも また インナーチャイルド

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逆さまの国

頭は上についているのに
人差し指たちが
私の頭は底辺にあると
珍しそうに つついてきます
その度に 私の口が頭に上り
我慢できずに ゲロを吐いてしまうのです
嫌な臭いは足裏の鼻が嗅ぎつけ
胸のあたりから足が 早歩きをし始める頃
心が 逃げていきました
私が頭から逆走している噂が 前進する度
かぶっていた毛布から 心臓が飛び出したい、と
お腹の耳に 泣きつきました
坂の上の窓から
「私には、みんなが歪んで見えます。」
と、言ったら人差し指で 詰られて 
「歪んでいるのは、君の首だよ。」
と、またしても 突っつかれて
私は首から まっ逆さまに
窓辺から 転げ落ちてしまいました
神さま 私の写真をください

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飽和する部屋

毎日ため息の数だけ窓に夜
毎夜吐息の数だけ開く眼
毎日錯乱する音楽が
憂いを売りつけ
毎日壁紙を貼り替え続ける
毎夜蛍光灯の光が
私を眩しく辱める
高い空に焦がれ
白い雲に跨り
微風の宵に躰を預ける
そんな夢を囲いの中で見たら
生き物の匂いが
吸いたくなって
窓の外にいる
誰かの名前を
呼びたくなったのに
誰を呼んで良いかわからない
部屋の中
自力で割れない
残っていた風船ひとつ
今も二酸化炭素を 吹き込んでは膨張させ
私は私を圧迫し 心臓から潰していく
「私の息が まだ、ひとこと分残っています」
独房のような部屋から
飛ばした 赤い風船が燃ている

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炎の中で産んだ子に

痛みが私を突き動かすのだ
何十本もの針から
毒が首に差し込まれ
私は自分の神経が
ピアノ線のように
弾けて途切れてゆく
音をだけを聞いていた
腐食してゆく細胞(いと)は
見えない棺に入れられたまま
燃え盛る炎に焼かれ
赤銅に生まれ変わるのだ
抉られた針の穴から
くすぶり続ける
赤い暗号たちが
火と火という記号の羅列を作り上げ
言葉を残せと責め立てる
首に貼られた血止めのテープを取り払い
首筋から溢れ出す痛みをかき集めて
私の首(もじ)を
差し出した
さぁ
赤鬼のは現れたかったか
赤い顔をして怒れる
私に似た
赤鬼を私の血肉で
虜にできたか
そして
その首(もじ)だけを
愛せるか
私と赤鬼は
断頭台で晒し者にされながら
永い間くちづけを交わす
舌を這わせ口腔に滑り込ませては
お互いの臓器を舐め回しながら食いちぎる
繋がれた舌から
夜の沈黙の中で
アーッ、あ。アーッ、あ。アーッ、アーッッ!
という
母音だけの垂れ流しが始まると
字と行間が 滴り落ちる
私は鬼の子を産むだろう
痛みの中で怒りの中で
燃え盛る炎の中で
銀の針のような視線をした
紅蓮のオーラをもつ鬼を
人々いつしか詩と呼ぶだろう
そのためだけに
私は 今日 
愛する赤鬼を
喰い殺したのだ

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ピンクのマニキュアを買う
好きな男に会うためだけ
その日の私の爪を
彩るのは四十になると
決して塗れない色のピンク
この指先で好きな男に
触れるのだ
真夜中風邪を引きながら
何度もコーティングしては
塗り直し 塗り直し
たった一日持てば用はない物を
私は三時間かけて染め上げた
ホテルのドア口で
マニキュア瓶と別れ
五反田で鞄の留め金に
爪がこすれ
渋谷の人ごみに色が褪せて
私の男にあったとき
私の指に爪はなかった
ただ
私の指が
あなたの身体の輪郭になぞりあげ
よじれたあなたが声をあげた時にだけ
私の爪には 赤い火が灯るのだ
あなたの身体の 隅々に私の爪痕が
今も さ迷って
黒く 喘ぐあなたを
ピンクに 染め上げてゆく
一夜限りの恋物語は
一夜だからこそ
千年のシナリオを
感じたままに
あとは男の爪に
委ねよう
お互いの 指切りが
ひとつの 思い出となるように
男の長い指を
私は 今日引きちぎり
私の指は 男にあげた

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夢からの便り

忘れ去りたい過去ほど 眉間に刻まれ
悩んだ汗や疲れた陰が 額に滲む
頭の記憶より先に 肩で風を切って歩んだ
白い足跡だけが 残された街
握りこぶしを離せない花ざかりの古拙に舞う
桜の花びらの数を 見送るたび
五月の風が 友を攫ってゆく
初めて手を合わすことの
不可思議の 重さ
気づいてしまえば 震える肩とその指先
「夢から醒めない夢を見ている」怖い、と
泣いていた少女の 手のひらには
もう、指折り数える歳月に節目が覗く
誰かの見た夢の端っこの 通過点を
合掌する手の隙間から薄目を開ければ
厳しい人の優しい眼差しが 微笑んだ
肩をしっかりと寄せ合った 恋人同士だとしても
沈黙の花を 咲かせなくては いけないよ、
春鳥たちに それぞれの 夢を託けるために

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タイムリミット

冷蔵庫の中で母は 
飛蚊症と老眼の目を凝らしながら
自分の賞味期限を何度も何度も 
毎日 確かめる
私は母の頭の中から 一番初めに腐ってゆく
もやしや木綿豆腐の水を 
流しに垂らして 生ゴミにして毎日棄てる
それでも
白い冷蔵庫の中身は
綺麗な白いものから 腐ってゆく
私が昔飲んでいた 牛乳とか
誕生日に頬張った 生クリームとか
甘い思い出ほど 固まったまま
苦い時が過ぎ カビが生える
このままでは私は見つけてしまう
腐ってカビの生えた母
白い骨と粉になった母
そして温度計が 午前零時を指した頃
白い母が 覗き見る
凍てた私の温度の変化 
お前もとうとう、腐ったね、って

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