ネズミ

上京して赤信号で渡ったら 叱られた
コンビニにまで 「並びなさい」の、
足型マークが付けてある
お金を払わなければ 何処にも行けない街が
嫌いになるまで 居たかったのは
この街で 私を映す目をした「わたし」に
探されたかったから
銀座線の乗り方も知らないままで
赤坂が大阪と どう違うのかも知らないままで
南青山に 何があるのかも知らないままで
いつもと同じ時間 いつもと同じように
くたびれて帰るアパート、の
窓際から「欲」と「好奇心」がぶらさがったまま
私を 見下ろしていた
今日 居酒屋に入っていって
独り ウーロン茶で酔ったふりをする
 (私、詩人なんです!シンジンショウ、とちゃったりして 凄いでしょう!
なんて 絶対、言わないよ
凄くないから
それって、ちっとも凄くない
今日面接に行ったら それとない圧力をかけられたんだ
 (まず 頭を下げることから覚えるんだね 
 (これだから ユニクロを着た田舎娘は気に食わないんだ
都会の顔をしたお代官様は やんわり罠を仕掛けて突き帰す
アパートに帰ると 
最近 ビニールを齧り続ける小動物の音がする
多分 ネズミが いるのだろう
姿は見えないけれど ちょこまか動く 
汚いネズミが 街に穴を 空けていく

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

刺さる雨

ずぶ濡れのアパートを 飛び出して
たよりない街の たよりない自分から
駆け出して行く
「お前を産んだ途端に、
お母さんの人生は終わってしまったんだ」と、
罵る泣き声のようなものを
私は 誰に伝えたらいい
望まれないで 産まれてくることの
理不尽さをのせた産声は
雨に 叩かれ続ける
ねえ、
私は どこまで走ればいい
はじめから
ずぶ濡れながら喚いて
生きてきたような 私
それでも
雨がやむ頃には
晴れた空が 私の影だけを
映すだろうか
しかくいものを見ては まるいと言い
まるいものの中で 傷つけられてきた
そんな自分にしか なれなかったのに
私の影を埋める
誰かの陰を感じながら
雨が 頬を濡らし続ける

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

誰かが 私の家の
屋根裏部屋に上がって オナニーしている
階下には 小さな人形が
黒い大きな座椅子に 足を開げて 置いてある
その人が 上で 思春期をふるわせた声を漏らす度
椅子からはみ出した 人形の指先に
麻痺した ヒビが入っていく
足を開かされた人形の 窪みから
夢のような目が 覗きこんでいる
その目が 昼と夜の間を
瞬きしながら 行き来する
外は 雨
小さな隙間を作ってしまった二階の ブラインドから
人形の顔に 粒子のような水が落ちる度
窪みの目は 見開いたまま 独りでに 充血していく
(そろそろ、を、、して、、かないと、)
誰かがしきりに 喋っているが
その正体を 私は知らない

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

364日

ドラマチックに声をあげながら 静止していくのは
流れるはずの血液 聞こえるはずの心音
足早にそこから立ち去っていきたいのに
抱えた季節を手放せないから 動けない
与えられた名前の一生分の意味を
順番に呼ばれてゆく葬列の後ろ側には
もう、誰もいない
頭の中を電車が通過してゆく
その響きが終わらないうちに
触れ合った肌のぬくもりが 凍えて
冷えた 冬が顔を出す
黒い携帯を 雪の中に埋めて
着信履歴だけを残したまま 壊してしまいたい
名前を 呼ばれていた
「あなた」と呼んだ私ではない人に
ちがう名で呼ばれる 「あなた」が
(処方箋をください。黒い携帯と同じようなものを)
白いジャケットを羽織った多くの人に
私の時間を三百六十四日分 支払うと
携帯の履歴だけ袋に詰めてもらう
あとは 
透明に滴り落ちる 一日に縋りつくだけ 

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

S

寡黙から 泣き止まないS
誰かに救ってもらいたいS
オムライスを掬うスプーンを 手渡すように
救いを手渡して 掬って食べることができる
Sの始まりから終わりへの 繋がり
救われないあなたに 救って欲しい 私がシンクロして
向き合うことの大きさに 比例してゆくS
誰もが知っている街の 誰も来ることのできないお店で
私たちは銀河系の言葉で 星の名をオーダーして食べる
一番美味しかった蠍座のアンタレスの 赤い心臓を
フォークで突き刺して 私たちは食べた
皿の上には赤い毒まみれの オムライス
 すくえないね・・・と、あなたは言った
 うん。すくえない・・・。と、わたしは呟いた
無限大の真似を 横向きでしたかった S
でも 
スプーンは転がってしまって 横たわったまま
迷宮入りに なってしまった
饒舌からはみ出して 戻れないS
繋がらない途切れた距離にいるのに
あの時 スプーンを手渡したかったのは
救われたいSに 私の心臓を すくって、
食べて欲しかったからかもしれない
 銀河鉄道に乗って 二人
 カムパネルラの 後ろ姿を
 見かけた話がとまらない
(話に釣られたS、話に吊るされたS,)
ああ、センチメントに向き合う 二つのエスよ
その話が 有限な街のレジのなかに収まって
誰にでも買われてしまうことは
もう とっくの昔に 知っていたのだけれど

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

日蝕

腕には花の痕
ぬるくなった前頭葉から真昼が滴り
効き目のないエアコンの風が
指先を 揺らしている
デコルテの青白い呼吸が 唇から漏れる
白熱灯の陰り 閉ざした瞼から
上手に笑う あなたが潜む
 (ひらきなさい。怖れてはならない。
   二度目に死ぬことも。)
空から降ってくる太陽の重さと熱さを
女の水だけで蒸発させる宴が繰り返される
鏡が 私を吸い込み 奪い続け
肉体の輪郭は溶けて フラスコを濁してゆく
実験は繰り返され 私の眼は
アルコールランプの炎に 投げ込まれたまま
燃え続けている
夜 ちぎれた声 途切れて 聞こえる
あ、あ、あ、い、い、い、い、い、
その先が いえない
蛻になった私の部屋で 心臓を鷲掴みにして
笑う男がいる
 
(新しい太陽を植えてあげよう。
   今度からはこの光で動きなさい。)
真夜中に巨星がうめき声をあげては
流星になって滅ぶ
そのたびに私の子宮から月見草が咲き乱れ
腕にその残骸の痕を遺して逝く
喉から、あ、い、が、生えて滴り落ちる時
ああ、また、私の上で
無口な月が太陽を餓死させている

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

夜を置く

デジタルの文字の数だけ姿見せラインのように近くて遠い
退屈な私たちに夜を置くスマートホンの便利な夜明け
東雲を鎌で研いだ三日月は昨日噛んだ爪の歪さ
山間を染め逝く夕陽の亡骸が蝉の骸の瞳に映えて
鈴虫に夜の始まり告げられて彼岸花の紅さを慕う
眠れない眠剤の罪の濡れ衣をカプセルにして飲み込む朝日
一人部屋独りの黒に馴染ませた瞼の奥にもうひとつの黒
くちびるが乾いたままでため息を吐き出さないで吸い込む遊び
眠れない夜をこじ開け眠らせる裂いた空から取り出す朝日
蟋蟀の一夜を浸す涼しさに壊されてゆく扇風機たち
残照の残り火みんな星になれその身一つの光を纏え

カテゴリー: 06_短歌 | コメントする

行方知れずのゆくえ

【行方を尋ねないでください。
それは、行方不明になりたかった人、限定で、お願いします】
そんな紙を 寂れた下町の施設に 貼ってあげたい時がある
何の名札も値打ちも持たないということの
自由さと 保証のない危うさを 背負って旅に出た者たちに
名前や住所や、姿勢や仕来りを 押し付けたがる
「上」と 思っている人たちの みすぼらしい自負心を
満足すためだけに貼られる バーコードやナンバーで
彼らを呼んだり ましてや 白い箱に閉じ込めて
飼育しては覗いている「上」
人は 人と人との間に いつから川を作るのだろう
その川の向こう側に 憧れる者を
人同士で 裁けるのだろう
境界線を人差し指で 引いた人
その人に 私は引き金を向ける

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

見えないものを見 聞いたことのない歌をうたう
聞いたことのない声を出し 人と関わりたがる
私の目は 饒舌に喋り続け
下半身の纏った嘘を 脱がせようとする
私に口はないが 手はいつも人を殴りたがるし
私に切符はないが 目を瞑れば何処へでも行けた
あなた方の瞳に映る私は 私であったであろうし私でもない
あなた方の記憶する私は 決して立ち止まらない 君や誰か
               ※
青信号のスクランブル交差点 
誰も私の顔をして歩いているのに
誰も私になれないまま  毎日を通過していく
私は 赤信号の中に住む
私は 交差点の真ん中の点
私は その点を振り返った君に 微笑んだ
踏みつけられたままの文字

カテゴリー: 02_詩 | コメントする

おいやられる。

新しい文明についていけない、老い、ヤラレル、という人々をターゲットに 
マネーゲームは 果てしない
今日も 宅配便の中年が 老婦人が出した百円玉が一枚足りないと
トロクサイ手つきを笑いながら 右手のポケットに
すばやく隠した 百円玉
 (サインひとつで いいのです
 (わざわざ 判子なんて要らないですから 
 (どうかここにお名前を
なんでも 新しく素早く便利に 身を隠す
旧人類の名前を 電話帳でシューティング
今日はネット会社の社員でテレフォン 明日は通販の珍問屋
 (サインひとつで いいのです
 (わざわざ 判子なんて要らないですから 
 (どうかここにお名前を
今日来た 生命保険のオネーチャン
タナカさん、って 昨日健康食品配ってた親切な人と
名前が ナンダか、 似ているね、
父が 二千人のタナカ、さんに 百円玉を 配り歩く

カテゴリー: 02_詩 | コメントする