八手

     八手
          弓田弓子
  
 地平線に向けて願い事が多く合掌するてのひらの
 指が増えて八手に成長していく この八手をどう
 するべきか 八手の葉を切り落とすくふうでじっ
 とかれらをみつめるものだから 葉の先が変色し
 てきた 葉の中に震える人物が潜んでいるかのよ
 うに ときに物音を立てる葉に出会い 驚かされ
 るがここには長い年月だれも潜んでいたりしない
 葉の中のだれかを救いだすために 入り組んだそ
 の道筋などたどってみたが やはりここにはだれ
 もいないのだ
 八手の葉を切り落とせば落とすほど柔らかいしわ
 くちゃな 小さな赤子の手を密かに増やし 深い
 家族の かたい葉のかたまりを守るためにいっそ
 う葉の指を広げ中味を覆っている 黄白色の五弁
 の花にまでたどりつけずにそのまま腐っていく柔
 らかい葉を 激しい日差しを避けて かれらは互
 いにあおりあおり ぐったりしたまま陽が落ちる
 までろうどうしている 葉の陰で 炭酸同化作用
 を調べているとかれらの広げたてのひらが更に指
 を増やしていく
弓田弓子さんの詩はいつも魅力的だ。ひとくせもふたくせもある。思いもよらないところからぬっと手がでてくるようで怖い。ごく身近な媒体からとんでもない異空間に連れ去られるのだ。ちょっとどころか多いに不気味だがやさしさがある。怖いものみたさかな、弓田さんから詩誌が送られてくるとわくわくする。「八手」は『ゆんで』3号から。

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