不思議なリアル感

今日は中井ひさ子さんの詩を紹介したい。彼女とは『ぶらんこのり』『二兎』『4B』と、懲りることなく同人誌を増やしている友人である。二人とも、やってくる困難など思いもつかず、のりやすい性格なのだろう。とはいえ、この上なく恵まれた詩友たちとの同人誌作りは楽しい。中井さんと出会ったのは8年か9年前である。ある詩の教室での合評会だった。突然やってきた彼女は一度限りの通りすがりの人のはずだったが、ところがそのとき持ってきた作品が「月夜」。これが忘れられない作品となった。ウサギが卵を産む!えっと思ったけど、なんとも不思議なリアル感。哺乳動物と卵の詩は他にもあるが、詩をあまり読んでなかった当時の私にとっての驚きは、夜も寝られなかった。(ちょっとオーバーかな)しかし彼女との個人的なつきあいが始まるのは、それから数年たってからのことであるが。そのときの「月夜」を紹介したい。
     月夜
           中井ひさ子
   月夜には
   ウサギがふってくる
   彼と私は
   近くの原っぱに
   トンボとりのあみを
   一つずつ持って出かけた
   大きな月が昇ると
   ウサギがふってくる ふってくる
   彼と私は夢中であみをふりまわした
   ウサギだって
   そうたやすく捕まりはしない
   それぞれの思いで飛び跳ね
   あっという間に
   四方へ消えた
   ふと気づくと
   彼のあみに
   卵が一つ
   「文明が進んだんだもの
   ウサギだって卵を産むさ」
   彼は大切そうに温める
   「それ私が産んだ卵
   いつの頃か
   月夜の晩に卵を産む
   私の習性
   でも
   生まれた子が
   あっという間に
   月に昇ってしまうのが
   さみしい
 

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