わたしとあそんで

  わたしとあそんで
        征矢泰子
 あなたは茶色のジャケットをぬいではだしで流れのなかにたち
 ごつごつした岩にジャケットをたたきつけ
 それからそれをていねいにおりたたんでふみあらいし
 木と木のあいだにはりわたしたロープにほした
 それからふりむいて あなたはたずねる
 「機嫌よくあそんでいますか」
 いいえ わたしはあそんでいません
 だあれもだあれもあそんでくれないので
 わたしはきょうもきのうもひとりぼっちでたいくつです
 おとこたちはきすしたがりねたがりますが
 あそんでくれません
 だからあそんでわたしとあそんでまひるのもりのなかで
 ゆうやけのつみきのまちでつきよのガラスのどうぶつえんで
 わたしとあそんであめあがりのみずたまりはだしではねかえして
 ゆびとゆびのあいだにはりめぐらしたあやとりのめいろで
 とめどなくあそんでくるうたのいずみのなかで
 わたしとあそんでわたしとあそんで あなた
 おとこでなくおんなでなく おとなでなくこどもでなく
 けむりのようにたわいなくふけばきえる
 わたしのこころとあそんであそんで
 機嫌よくあそんで
 よびかけてもけっしてきこえない宇宙よりもとおいところで
 あなたは川べりに石をつみ つんだ石のうえにすわり
 ぬけるようにあおい空をみあげてタバコをすう
 それから ゆっくりとふりむいて
 「機嫌よくあそんでますか」
 パチン とわたしがスイッチをおすと画面はまっくらになり
 わたしはくしゃくしゃのベッドにひとりねそべって
 ながいながい午さがりがゆっくりとながれていくのをながめた
                
この詩はペッパーランド10号(1990年・水野るり子・前田ちよ子発行編集)に載っていた。
この号のテーマは「天の川片道切符−彦星に捧ぐ」とある。なんというひりひりした切ない詩なんだろうと思った。それは最初読んだときテーマを忘れていたから。こんな風に感じていたときを思い出したのだ。そうだ、これは彦星にだと気が付いたとき、ふっと気持が軽くなり世界がひろがった。詩と一緒にエッセイもある。紹介したいが長いので最後の箇所だけ。「生物としてのエロスを今一番たっぷりもっているのも性分化する以前の少年少女のような気がしています」少女という存在、分かっているようで分からない存在、知りたい。

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