「何を書くか、何を書かないか?小学生の作文にひれ伏そう」村田喜代子の『縦横無尽の文章レッスン』の前期・第一週のテーマである。この本は大学でひらく実践的な文章講座と帯に書かれている通り、形式は週ごとにテキスト、テーマが決まっている。読者は読むことによって脳の清浄かつ訓練が出来る。そんな感じの本で、とてもおもしろかった。それで今日、なんの気なしに『裸の大将・東海道五十三次』山下清(遺作となった絵と文章)を読んだが、村田喜代子さんが、子供の作文から、おとなの私たちが学びたいこととして4つあげている、まさにこれぴったしの文章なのである。「1まず書く事柄を決めておく2そして書かない事柄も決めておく3大胆に自分中心でいってみよう4そうして周囲を細心に観察する」
山下清が絵につけた文章、まず川崎大師でのこと
「川崎のお大師様にどうしてたくさんの人がおまいりに来るかというと おまいりに来るといいことがあるという人が多いからだな
ぼくは放浪のとき 成田さんのお守りをよその人に貰ってそれをつけて鉄道線路を歩いてたら汽車にひかれなかったな それをどっかへなくしてから鉄道線路をあるいたら やっぱり汽車にひかれなかったな お守りのききめはわからないな ここで一番とくをしてるのは ただでえさをもらっているハトだな」
金谷 牧の原で
「牧の原ってとこは全部お茶畑だな 日本人はお茶がすきだから こんなに広いお茶畑がいるんだな ぼくはルンペンしてるとき よその家でときどきお茶をのませてもらったけど西洋のルンペンはコーヒーか紅茶をのませてもらえるのかな 日本でお茶をくださいというと ルンペンにお茶はぜいたくだ水にしろといわれたので 水はおなかをこわすと悪いですというと 勝手にしろといって それでもお湯をくれたな」
坂の下 筆捨山で
「むかしじょうずな絵かきがいて この山の景色があんまり上等なので 絵にすることができなくて筆を捨てたというのは ほんとうだろうか ぼくはいつでも景色の方が絵よりきれいだと思っているから そんなこと気にならないな 描きたいところを描くこともあるし 描けといわれて描くこともあるけど 描きだせばどっちでもおんなじだな」
絵もいいし、おもしろいです。小学館文庫476円なので買って読んでみてください。
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