『坂本繁二郎展』を見る

昨日用事もあって出かけたが、そのついでにブリヂストン美術館に行く。
坂本繁二郎は生まれが久留米、そして後年もその近郊(八女)に住んで制作活動をしたのでブリジストン(石橋家)とは深い関係があり、これは美術館開館50周年を記念して開かれたものである。そんなこともあってその生涯(89歳で没)が一望できるようになっていて見ごたえがあった。
私も久留米に子どもの頃住んでいたことがあるので、ちょっとした縁も感じた。八女はお茶の産地である。
TVでの紹介で見たいと思ったのは、日本の洋画の創成期に活躍、パリへも留学しながら青木繁、梅原龍三郎、佐伯祐三といった人たちのように日本の風土を超え、強烈で新鮮な色彩感覚で独特な画風を造ったのとは違って、それらを取り込みながらも日本の風景や馬や牛や人物を、模索しながら日本画や版画の技法にも近づくような形で独自の世界を造っていったような人であることに魅かれるところがあった。名前は知っていたがこれまでしみじみと見たことはなかった。
全体的に油絵でありながら、どこかパステル画を思わせるような色彩、マチエールである。一見単調で淡く地味な色調でありながら、じっと見ていると深い質感があり、確かな存在感がある。東京やパリにいた時期には人物画も多いが、八女に居を構えてからは風景や牛や馬、特に後年はさまざまな馬の画がある。馬の躍動する姿、親仔の情愛をも感じさせる姿、そしてその毛並みにすらまじる独特のエメラルドグリーン。そしてそれは馬自身を描くと共に、その肌につやを与える陽の光や風をも感じさせる印象派的な画風をも思わせられるのである。
高年になると能面や静物画が多くなり、晩年は月(それも満月)を書くことが多く、雲と月、馬と月などの取り合わせなど、風景と言うより一種の幽玄の世界、抽象画、心境画的なものへとたどり着く。
詩人との付き合いもあり、前田夕暮、蒲原有明、三木露風、丸山薫などの詩集の装丁や挿画も手がけているので、どこかそのポエジーに近いものもある。
西洋画に迫る油絵と言うより、西洋画をとりこみ日本的な油絵を創出したと解説にあったが、まさにそういう感じがした画群であった。
はっきりしない曇天で小雨も降り始めていたけれど、会場の中に漂う梅雨の晴れ間のような気持ちの良い空気を味わい外に出ると、雨は止んでいた。こういう日本特有の季節にむしろぴったりの画家かもしれないと思いながら会場を後にする。

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