「二人展」と「パウラ・モーダーゾーン=ベッカー展」

一昨日、「二人展」に行く。
これは水野さんがすでにブログに入れているので、それを読んでくだされば雰囲気がよく分る。私も楽しませてもらった。弓田弓子さんの野菜の絵など、自分でも描きたくなる気持ちをそそられるほどだが、シニックでユーモラスな素描はセンスがいる。難しいと思う。坂多瑩子さんのフラワーアレンジメントもそういうセンス、彼女の詩のように飛躍があって面白い。カタツムリができるとは思いがけなかった。
誰もいないとき、こういう喫茶店が少なくなったことなど、マスターと話をした。彼もカメラが趣味で古いカメラなど展示、儲けよりも小さいなりに文化の香りのする雰囲気をつくりだしたいのだそうだ。そのうち横浜詩人会の菅野さん、荒船さん、浅野さん、そして弓田さんも顔を見せたので、しばらくお喋りをして帰ってきた。
場所は新杉田のギャラリー喫茶「ラパン・アジル」。
昨日は神奈川近代美術館 葉山「パウラ・モーダーゾーン=ベッカー展」に行った。
近いのになかなか行く機会を見出せなかったが、やっと訪れることができた。環境が素晴らしい。幸い雨も上がって青空の下、春の気配が感じられる裏山と足元に穏やかに広がる海に抱かれた広やかで白い美術館、半日のんびりと過ごすのには好適なところだなあ・・・と思う。
パウラ・ベッカーは日本ではあまり馴染みがないように思えるが、リルケなどが高く評価した時代に先駆けたドイツの女性画家である。
ベッカーに心を惹かれ長年その画業を追い続けてきた早稲田大学大学院教授の佐藤洋子先生の講演がこの日にあったので、それを聴きに行ったのであった。2003年に出版された佐藤先生の著書『パウラ・モーダーゾーン=ベッカー 表現主義先駆の女性画家』によってその全貌が日本でも紹介されるようになったようだ。予約制であったが、満席であった。
講演の題は「画家パウラと彫刻家クララ」というのだが、リルケの妻であったクララとリルケ本人、そしてベッカーの北ドイツのブレーメン郊外の芸術家村における暮らしと交流が語られただけでなく、カミーユ・クローデルとロダンの話などへとそれはつながり、更に展覧されてなかったベッカーの画だけでなく、夫のモーダーゾーンと暮らした家など、長年にわたり実地を訪ね歩いたスライドなどが次々に紹介され、盛りだくさんで話は尽きないようで時間のたつのを忘れた。
展覧会の感想としては、先ず自画像が多いことである。そして対象の多くが女性で、女性の初夏秋冬を描きたいと本人も言っていたようだが、女でなければ描けないものがそこにはある。裸の少女があり、老婆がある。そして赤子を抱いた母親の姿があるが、それは男が描くような母子像ではない。ドイツであるから森、という自然を描くことはしていて、画家である夫の影響も見逃せずそれもなかなか力づよく、またセザンヌに惹かれたと考えられる静物の色彩感覚も美しいのだが、晩年離婚を考えるようになるのもその画の上での差異によるもののようで、ベッカーは内面をもっと描写したいと焦っていたようだ。
写真を見ると落着いたやさしそうな人だが、ドイツ女性らしいしっかりした強い意志を感じさせる眼差しを持っているようで、しかし佐藤先生の話によると大変お洒落な人だとのこと。確かに自画像の多くはネックレスをつけている。
だが惜しいことにベッカーは、和解した夫の最初の子を出産後、その産褥熱から引き起こされた病のために永眠。31歳という夭折。その間にこれだけの多彩な(日本の浮世絵にも関心があり、それを取り入れたものがある)画業を残したというのには感嘆させられた。
朝まで雨、そして青空と太陽を見上げての昼間であったが、帰りはまた雨になってしまったという気まぐれな春の陽気の、だが運の良い一日ではあった。

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