近くの芸術館でこの二本立ての映画を見た。
どちらも女性映画の名手といわれる成瀬巳喜男監督。『流れる』は幸田文原作、『浮雲』は林芙美子のそれぞれ名作である。
どちらも内容は有名なので省略するが、出演者は、前者は田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子、岡田茉莉子、栗島すみ子・・・といった、今考えれば豪華極まりない顔ぶれで、後者も高峰秀子と森雅之の組み合わせのほか岡田茉莉子、加藤大介、山形勲など。彼らの若い頃が見られるというのも、映像の不思議な面白さ。どちらも白黒である。
最近こういうリバイバルものに対して、私は内容の芸術性云々よりも(もちろんそれは大切で、それが前提だが)そこに映し出された映像そのもののほうに興味が行くようになった。即ち、その時代の風景、人々の日々の暮らしぶりや習慣、今では見られなくなってしまった家具や道具、日常の細々したものまで、それが背景として映し出されているので、あたかもタイムスリップしたように感じられて懐かしいのである。
前者は(1955年製作)、舞台が大川端に近い花街の芸者の置屋で、そこの女中(文自身の体験)の目から見た芸者たちの姿なので、華やかな表に対しての裏側の暮らし(同じ花街を彷徨した荷風には決して書けない)が描かれており、暮らしのディテールは映像ならではのものがある。
しかもどぶ板を踏んでと形容されるような路地で一見だらしなく暮らしている女が、さてお座敷という職場に向かうときに蛹が蝶に変わるように、たちまち美しくなっていく姿を見るとき、女でもうっとりしてしまう。
特に最後で山田五十鈴の女将が潰れそうになった置屋を何とか建て直そうと、決死の覚悟で恥を忍んで、昔の旦那に会いに行く時の芸者姿には、恐ろしいほどの美しさを感じた。
後者(1956年)は、戦時中の安南(ベトナム)が男女の出会いなのでそこから始まるが、後は戦後で、闇市の賑わいやパンパンといわれた女の暮らし、戦後の庶民たちの暮らし。そして浮雲のごとく転々としていく、代々木、千駄ヶ谷、渋谷などから二人で行く以伊香保温泉のその頃の様子など、バックに写し出され、その頃の暮らしや貧しさが偲ばれる。
そして最後に高峰秀子の雪子が寂しく死んでいく屋久島も、今でこそ縄文杉などでもてはやされ観光地になっているものの、その頃は電気も何もない流人の島のように雨ばかり降る遠い僻地で、農林省の技師(森雅之)や工事関係のような人しか行かなかったのであろうと思われる。
この映画の中にある道具やそれが置かれてあった家、それらが作っていた町並み全てが、今の日本ではほとんど無くなってしまっているなあ、と思うのであった。折りしも今日のニュースでは、青山の同潤会アパートの敷地跡が新しく「表参道ヒルズ」となって様変わりした様子が映されていた。その面影は残しながらだと紹介されていたが、しかしそれはもうまったく別物であろう。
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