針穴くぐり

今日、詩誌『ぶらんこのり12号』が、がさっと届いた。東京の中井さんと福岡の坂田さんと私の3人で始めた詩誌である。一年に2回発行ということぐらいしか決めてない、自由というかのんびりしてるといおうか、それでももう6年もたってしまった。発送はこれからだが、坂田さんの詩を紹介したい。
 針穴くぐり      坂田よう子(「よう」は火へんに華)
食欲の秋だというのに
いとこのかやちゃんは
ダイエットの真っ最中だ
やせっぽちのくせに
それ以上やせると消えちゃうよ
そう言うと
針穴をくぐりぬけたいんだ
と言う
昔からわけのわからないことを口走って
まわりをけむにまくのが
おとくいだったかやちゃん
あいかわらずだと思いながら
ながめると
背中のあたり腕のあたりが
すきとおってきている
何日かたって
ランニングを始めたという
かやちゃんに出会う
いよいよ出かけるよ
植木に水やっといてね
すっかり気配だけになってしまったかやちゃんは
耳元でささやくと
わたしに鍵をおしつけて
そのまま走り去った
どこ行くの
かやちゃんの気配にむかって
さけんだけれど
かすかな笑い声が聞こえただけ
さっそくかやちゃんの住む
アパートに出かけてみると
テーブルの上に針をさした針山が
出しっぱなし
かやちゃんらしいや
そう思いながら
裁縫箱に片付けて
ベランダの植木に水をやる
あれから何年もたったけれど
かやちゃんは帰って来ない
老朽化が進んで住人がいなくなった
アパートは取り壊された
すっかり空き地になったアパートの跡に
たたずんでいると足元に
どこか見覚えのある裁縫箱が
転がってきた

カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です