一昨日の続きだが、「からだの声をきく」をテーマにして書かれた作品はどれもおもしろい。女性ばかりなので男性と比較できないのは残念だけど、1篇紹介したい。
ハハとねことあぶら蝉
岡田清子
ハハはともだちのおばあさんのおくやみにでかけ
台所の床にはりついていた
まっくろなねこをふんでころびました
ねこは
にゃおとないたからだいじょうぶ
ふにゃとしてなまぬるかった
などといいながら
ちかごろ目がわるくなってと
眼鏡のしたからちいさな目を
こすってみせました
ハハは秋になると八十才になる
妹は
七年前さくらの花びらのなかに笑うように
両手をひろげていってしまいました
からだじゅうの毛あなから水がこぼれ
タオルをあててもあてても
水はだまったままするすると通りぬけて
私の手をぬらしました
あぶら蝉がバランスをくずして
地面におちてきます
手足を胸にたたんで
死んだまねをして
まねをして一日たって
ハハは足の裏にねこがひっついている
ともう一時間
足をあらっています
あぶら蝉をふんだことは
まるでおぼえてないのです
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