小島きみ子「ひそやかな星のように」いのちは星のように

ひそやかな星のように    小島きみ子

 いつの間にか雨が止んで、灰色の岸辺にでは、春の初めに咲く
花の木がそよぎはじめた。その蕾は次第に膨らんで、ひそやかな
星のようだった。冬を連れ去っていく風の音を聞きながら、枯
れ草の上を歩く時、白い雲に流された影を、私は、鳥が獲物を
追う目になって、影のなかを見つめる。私たちは、見えるよう
な愛を求めていたのか。空は、泣きじゃくる子の波打つ髪の毛
のように揺れていた。

 ふと、懐かしくて、影のなかに向かってなまえを呼ぶとき、
きっと言うのだ。それも明るいきっぱりとした声で。(僕)は
あなたの思うとおりにはならない。(僕)は(僕)を守るよ。そ
れでも、どうか元気でいてください。(僕のmama)と。私は
再び影のなかの、草の種のような、小鳥の目になって言うのだ。
私の母へ。(mama  私は、あなたの思う通りにはならない。そ
れでもどうか元気でいてください)

 かっての私たちが暮らした、キッズクラフのその家では、放
課後の子どもたちが、ボランティアの青年と遊んでいたる黒い
髪の少年たちのなかに、ブラウンの髪の少年が混ざっていて、
彼は誰よりも速く野芝の上を、カラマツの木々の間を、走り抜
け行くのだった。その枯芝のなかに、小さな札と囲いがあっ
た。「花の種が(芽)をだします。踏まないでください」私の
影の上に重なる芽の、青い影を踏んだのはだれ。

 森の小道を、別れてゆく人と散歩する。まだ花の咲かない桜
の樹皮は、夕べの雨で濡れて、新しく生まれてきた子どものよ
うに、光った息をしていた。私たちは、樹にもたれて、苦しめ
られた仕事のいろいろなことを思い出す。あなたは、また再び
言ったのだ。きっと戻ってくる、また一緒にやろうって。その時、
つややかに光る木の枝を折るように、白い雲の間を渡って行っ
たのは小さな獣、それとも辛夷のはなびらだったのか。
                  ※
 この詩のなかで、不思議な、でも、そんなふうに私も考えていたのかもしれない、と思ったのは、
三連目に書かれていることです。
「(僕)はあなたの思う通りにはならない。(僕)は(僕)を守るよ。それでも、どうか元気でいてください。(僕のmama)と」
「私の母へ。(mama 私は、あなたの思う通りにはならない。それでもどうか元気でいてください)」
というところです。家族の絆とか、つながりをこんなふうに、きっばりと、しかも冷たくではなく、ある種のユーモアが感じられるように、言ったのは、とても面白いと思いました。
この詩全体についていうと、自然そして宇宙と人間がどこか深いところでつながっているような感じ
がして、そのことを感じるままに言葉にしたような気がします。
 それは特に一連芽によく現れています。たとえば
「私は 鳥が獲物を追う目になって、影のなかを見つめる。私たちは、見えるような愛をもとめていたのか」に私は感動しました。
一連目と同じ四連目も自然と人間が融合するような世界が書かれています。
こうしたなかに、二連目の家族の営みが挿入されているのが面白いと思います。
この詩はどこかイギリスのターナーの水彩画を思い起こさせます。

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