高塚かず子「大村湾」  面白いと生きるは似ている

大村湾      高塚かず子
ヒトはわたしを大村湾と呼ぶ
だけど私は湖だった盆地だった
大陸だった
どろどろの熱い混沌だったマグマだった
―――世界のはじまりのそのひと雫だった
ほんの四十六億年前には
わたしのなかを
泳いでいるスナメリ
大気も水も土もひとつに溶けていた昔
同じ混沌のひとつらなりのいのちだった
魂のように跳ねる魚も
ほほえみのようにひらく花も
心のように羽ばたく鳥も
祈りのようにうまれる赤ん坊も
核を抱いている真珠貝も
おびただしく浮遊している
ブランクトンも
この地球も ひとつの生命体(いのち)
 どこから来て
 どこへ行くのか
あ いま 太陽がわたしに溶ける
さざ波をくまなく染めて
              ※
 この詩は日本を見ているようで、私はとても幸せな気持ちになりました。
こんなふうに考えたり、ことばを使ったりすることができれば、みんな子どもから大人まで仲よくなれるにちがいないと思います。
 それにこの頃はごちゃごちゃして目も心も疲れてしまう世の中ですが、この詩を読んでいると元気が出てきます。
 特に私が「ああいいなあ、とてもいいなあ」と感じたのは最後の「あ いま 太陽がわたしに溶ける/さざ波をくまなく染めて」の二行です。私が太陽に溶けたような感じがしてびっくりしました。よく読んでみると「このわたしは大村湾」なのですから、私ではないのですけれど。
 そうわかっても、私には「私が太陽にとけているような感じがします」。
 そして、このことは決して間違っていないと確信します。それはとても愉快な感じです。子どもの無邪気というのはこういうことをいうのではないかと思うのです。

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