雨 蟹澤奈穂
駅を出ると 空の向こうに
観覧車が見える
あれはいつも止まっているようだけど
とてもゆっくり 動いていることに気づく
りょうほうの足に
自分の重さを感じながら
坂道を下りて行く
すると
雨が降ってくる
雨か それもいいね
ふいにメロディが口をついたので
そっと歌ってみた
ひくい声で つぶやくように
そしてこれを聴いている人が
たとえばどこかにいるのだと考えてみる
雨がぱたぱたと音をたてはじめる
服にしずくが染みを作る
虫の匂いはいつも懐かしい
さすがに少しいそぎ足で
橋を渡ろう
帰ったらまずコーヒーをいれて
それからでいいのかな と
どこかにいるその人に
心の中で許しを乞う
この詩を読んだとき、どうしてかLEEUFANのことを思い出してしまった。こんなに繊細な詩をかいて人に味わってもらいたいと思うのは間違っている。などと本人に文句をいったりした。傷ついたかもしれない。
でも、いい詩なのでおぼえていて、あとから心の中で許しを乞うたりした。
まるでこの詩のように、雨粒のようにいちいち心が動き出してびっくりした。
LEEUFANの絵には絵筆のとおりに色彩が字を書くようにまっすぐに一度きりにのびていて、次の線がまた引かれる、また次の一本、そうするとそれらの線に 色彩のグラディションがあって美しかった。考えてみればこの詩のひとつひとつの言葉遣いが非常に注意深くて、
行為、想い、雨の音などそのもののようにうごいている。行きつもどりつもしていると、急に歌ってたりもしてことばが自分の歌を聴いているひとがどこかにいるのだと考えたりして、他人がふっと現れて消える。
まして、どこかにいるその人に心の中で許しを乞うたりされると読者もまいってしまうのである。いいけれど、何が何だかわからないというのは、困るかもしれない。うつくしいけれど。絵とは違うのだから。 などとすこし辛口に言ってみた。
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