「スイレンは夕暮れには花を閉じ、水の中深くもぐってしまうので、手がとどかない。」ハス博士はいう。「夜明けにになると、東の方にむいて、再びうえのほうにのび、光を浴びて花を開く。神話では
赤いスイレン、すなわちハス、「世の初めから存在していた花」が原始の水であるヌンから現れ、または、「光からあらわれた」、この花は水や火、すなわち、混沌の暗闇と聖なる光それぞれとみっせつなものであった。水から現れたハスは、夜が終わって明ける太陽のシンボルとなつた。エジプト人がよく考えたことは、太陽神が、原初の湖からハスの花に乗って現れる、という考えであった。『死者の書』の15章では、ラーは「ハスから生まれた黄金の若者」として現れる。81章で、死者は聖なるハスに変身したいという願望を口にする。これは再生の望みを表現したものです。青いハスは、とくに、聖なる花とみられたのです。新王朝時代の多くの墓の絵画では、死者がハスの香りで気分を爽やかにしている様がみられます。ツタンカーメンの墓から出土した木製の彩色された彼の肖像の頭を見ると、王はハスの花から立ち上がっている。ハスはとりわけ、神フェルテムのものであった。」ハス博士は何度も何度もこのようなことを
わたしにきかせたが、わたしはいつもすっかりわすれてしまった。「アジアのひとはなぜハスの花を好むのだろう?」と私に聞き「そこにあったからでしょう」とわたしがいうと、その考えは面白くないといつておこったり、何日も何日も傷ついたように黙ってしまったりした。彼は私に、いろいろなこと教えてくれた。モーツアルト
も、ランボーも、原爆のことも、けれどもハスのことはまだわからない。時間がかかるのである。かれは
ハスの映画を作りたいと思い、何度も何度も企画書を書くがまだ一度も通らない。
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