『薇』4号を送っていただいた。飯島正治氏の追悼号だった。その中から「無限軌道」を載せたい。
無限軌道
黄ばんだ畳の野原を息子の鉄道模型の
ちいさな列車が駆けている
畳に耳をつけ眼を閉じると
レールを刻む車輪の音が大きくなる
縁の川にかかる積み木の橋を渡って
列車は過去の坂を下ってゆく
すると汽笛が聞こえ
ぶどう色の客車を引いた蒸気機関車が
扇状地のりんご畑の間を
ゆっくり上がってくるのだ
枝々のりんご袋を一斉にゆすって
列車が通り過ぎる
煙のなか車窓の一つひとつに
顔が浮かんでいる
おぼろげな父親の顔や軍帽の叔父
おかっぱの少女も見える
帰ってこなかった者たちだ
彼らを乗せたまま
列車は無限軌道を走り続けている
眼をあけると
ヘッドライトをまたたかせ
あえぎながら未来の橋を渡ろうとしている
””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
はるばるとした永劫の時間と今のこの瞬間が、一つになって見えてくる。
こんなにもありありと見える遠景。遠ざかる列車の車輪の音と、汽笛まで聞こえる。
無限につづく人々の記憶のつながり。ふいに懐かしさがよみがえる。
たとえ会ったことのない人々も私の記憶の中にいるのだと思う。
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