クアッガの星

クアッガの星

100年先の ある夏の日にも
だれか憶い出すかしら?

クーアッ クーアッと いななきながら
地平線を 雲母のようにあゆんでる
クアッガの まぶしい群れのことじゃなく

二頭立ての馬車を曳いて
ハイドパークを駆け抜ける
お利口さんの クアッガたちのことじゃなく

100年前の ある夏の日に
檻の中から ひとりさびしく旅立った
しんがりの おばあさんクアッガのことでもなく

しましま頭巾の クアッガたちをのせ
銀河系を回っていた 草原の星
太古からきた たった一つの星のことを

クアッガ:前半分だけ縞模様のウマ属の動物。狩りたてられて、
19世紀に絶滅した。その名前はかん高いなきごえからきている。

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ステラーカイギュウへ

ステラーカイギュウへ

かつて北極海に遊んだ
草食の人魚たちよ

その消息が絶えて
二世紀は とっくにたったけど…
ゆうべ 夢の深い水底で
海草を食んでいた あの後姿は
たしか君たちじゃなかった?

(もし あれが正夢ならば!)
君たちは 海の底へと 銛を逃れ
ながーい ながーい 夕餉のときを
のんびり 楽しんでいるんだね

ごわごわのひげ
しわだらけの皮膚をそのままに
「もう人魚のふりなんてまっぴらさ」って

ステラーカイギュウ:1741年、博物学者ステラーによってベーリング海で
発見されたジュゴンの仲間。10メートルほどにもなるが、おとなしい海牛で、
食料となり、絶滅したという。1768年に最後の1頭が殺された記録がある。

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青レイヨウ

青レイヨウ

青レイヨウが
まだ地上にいた頃のこと…

アフリカの子どもたちは
夢の曲がり角なんかで
よくかれらと出くわして
その青みがかったビロードの毛並みを
そっと撫でてみたにちがいない

でも今は
子どもたちもそんな夢は見ない
記憶のなかに ぼんやり干された
灰色の毛皮に
おとなたちが ときどき
風を当てているだけだ

 
青レイヨウ:青みがかった灰色の毛をもつウシ科の動物。死ぬとその毛並み
は灰色に変わった。美しい上、食用にもなり、17世紀末からのオランダ移民
の銃により、アフリカの哺乳類として最初に絶滅した。

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悪い夢

悪い夢

オオウミガラス50羽が
わたしを囲んでこういった

きいてくれ (きいてくれ)
ぼくらの 悲しいおはなしを

なぜぼくら (なぜぼくら)
北の島から さらわれて

なぜぼくら (なぜぼくら)
死んでも こうして立ってるの?

50羽の剥製たちの 眼のおくで
それぞれの海が逆巻いて

わたし…塩辛い夢のまんなかに
150年 立ったまま

オオウミガラス:水中は自由に泳ぐことができたが、飛べない鳥だった。
はじめはこの鳥のことをペンギンと呼んだ。
有史以前からの何世紀にも及ぶ殺りくの末、
辛うじて孤島に生き残った50羽も標本用に狩り尽くされて、
150年前に絶滅した。

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二羽

二羽

ホオダレムクドリの夫婦
今日も おそろいで 食事の支度

夫が自前のノミで コツ コツ コツ
たくみに 幹に穴をあける
妻が自前のピンセットで
すばやく 虫を引っぱり出す
さあ 楽しい食事の始まりだ…

鋭いクチバシと 器用なクチバシ
ふたりで1対の ナイフとフォーク
だから孤食なんてとても無理
毎日 仲良く食べようね
と、共白髪まで 暮らしたのに!

ああ、もし森が消えてなかったら
ふたりのつつましい食卓が
いつまでも そこにあったなら…

(ホオダレムクドリ:ニュージーランドの森にいた。
オスが短いクチバシで木に穴をあけ、メスが長い曲がったクチバシで
好物の地虫をつまみ出すチームワークで餌を取った。
森林が切り開かれ、1907年頃に姿を消した)

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オーロックスの頁

オーロックスの頁

この地上が 深い森に覆われ
その中を オーロックスの群れが
移動する丘のように 駆けていたころ
世界はやっと 神話の始まりだったのかしら

貴族たちが 巨大なその角のジョッキに
夜ごと 泡立つ酒を満たし
ハンターたちが 密猟を楽しんでいたころ
世界はまだ 神話のつづきだったのかしら

やがて 森は失せ
あの不敵な野牛たちは滅び去った
うつろな盃と 苦い酔いを遺して
破りとられた オーロックスの長いページよ
世界は それ以来 落丁のまま…だ

(オーロックスは長い角をもつ、大きな野牛。飼い牛の祖先。
ユニコーン伝説のもとになり、旧約聖書にも登場する。
 
角はジョッキとして珍重され、その肉は食べられた。
1627年に最後の1頭が死んだ。)

 

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バライロガモに

バライロガモに

ワニやトラたちの群れる
ガンジスのほとりに
バライロガモよ
君は ひっそり ひとりずまい
空一面の 夕焼けでも眺めてたのか

今は流行らない
孤独な詩人みたいに
けれど 湿原は拓かれ
君たちの魂は どこかへ去った
風のような鳴き声と
うつくしい球形をした卵と
そこに秘められた
遺伝子のながい夢といっしょに

…そうして
町の市場にならんだ君たちの肉は
どんな味がしたのだろう
バラ色の夢が
飛び去ったあとで

(バライロガモはインドの湿原に、四月の繁殖期以外常に一羽で
 棲んでいた、頭部がバラ色の静かな美しい鳥。湿原が開墾され、
 今世紀前半に絶滅した。)

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はがきの詩画集から THE ONEーWAY TICKET 

THE ONE-WAY TICKET(片道切符)

遊星の上のレストランでは
鳥料理が流行っています

つかのまの雨の晴れ間に
虹を渡って
タイムトリップした人びとが
傘のしずくを切りながら
ドードー鳥をほうばっています

空の奥ではゴロゴロと放電がつづき
橋のたもとはうすれています……が
だあれも席を離れません
「次のお皿はなんだろう?」

   
註( ドードーとはうすのろの意味。巨大化した鳩の種族で、飛べない鳥。
16世紀に発見されてから100年あまりで絶滅した)

「ドードーを知っていますか(忘れられた動物たち)」という絵本がベネッセから出ています。
画はショーン・ライス,文はポール・ライスとピーター・メイル。主としてこの2〜300年の間に
人間によって絶滅へと追いやられた動物たちが紹介されています。とてもうつくしい本です。
私は「夢を見てるのはだれ?」という題のシリーズで何年か前に、イラストと共に、
はがき通信を出したことがあります。そのなかからいくつか載せていきたいと思います。
絶滅の過程を追ってみると、それは現代にそのままつながっていて、その流れの音は
いっそう大きくなっているのでは…と思いながら。

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なくしもの

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問い

問い(flashバージョン)





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