ちいさいひとへ 三井葉子

2011、11月2日 
 福島第一原発の2号機で核分裂の可能性というニュース。たえず背中で火がボウボウの
(かちかち山の)タヌキみたいな私です。
 とても好きなル ・シダネルの展覧会が軽井沢のメルシャン美術館で開催中、それもこの
美術館は6日で閉館ということを今頃知り、どうしても見たくて滑り込みで見に行こうかと思って
います。いつか広島美術館で見て幻想的なその雰囲気に魅せられたのです。
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今日は三井葉子さんの詩集『灯色醱酵』から一篇を載せたいと思います。
                ちいさいひとへ 
                                        三井葉子

眠る子は
眠りのなかで夢を見ている
まだ 彼女自身が夢のようなのに
もう 彼女は夢を見ているのだ
過去が
彼女のなかにたぶん古い古い過去が彼女のなかに住みついているので
かわいそうに
もう 夢を見ている大昔の夢を
馬に乗って駆けていた 路地の溝に靴を落した
待っているのに来ないひとや
跳ねる鯉や
お箸を上手に使えない夢や
ああ
これからすこしずつ
彼女は一生 思い出して行くのだ
かわいらしい
花びらのようなくちびるをぽっとあけて眠っている
どうかそこからよいものが入って行き
よくないものは出て行くように
知恵や熱や
たましいとよばれるようなものはみな、空にあるので
アア アと両手を上げてカーテンを引っ張るように
空から
そんな
これから生きて行くのに要るものを引き落そうとしているのだ
そして響きをよりしろに降りてくるものがまいにち まいにち
ちいさいひとをそだてている
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ちいさいひとへの静かな深い愛が、柔らかな感性で、こんなふうに描かれて
いるのに感じ入ります。夢を見るこども。古い古い過去が住みついている
こども。永遠の中からぽっかりと浮かんできた夢の泡のようなこども。
詩的想像力と感性が時間の壁を繊毛のように撫で、くぐり抜けてゆく感触。
詩表現を支えるゆるやかな呼吸。
眠り姫の呪いを解き、百年目の幸いを与えるためにやってきた,あの仙女
のまなざしを思い出します。

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