ことば が 佐伯多美子

詩誌「すぴんくす」から佐伯多美子さんの詩を一篇載せます。
            ことば が
ことばが ずれる
すこしずつ ずれていくと
ことば が
裏返ったり
宙づりに なる
おもいとは
別れて 暴走していく
暴走していく ことばを
ただ 傍観している
むかし
いいわけに いいわけに いいわけを
して
なお 混乱して
いま は
天井から宙吊りになっている ことばを
部屋のまんなかで
へたり
座りこんで 見上げている
”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
わたしにとって3.11以後の言葉との関係をこんなふうに言ってくれたんだ
と最初に読んだときに思ってしまった。くっきりと筆太に。
もう一篇。これも佐伯さんが書いた作品と思うと、うれしい。もちろん誰が書いても
うん、うんと思うけれど。
          あのね
あのね
きょう ひとつ いいことあった
きもち やわらかかったし
あたま パンクしなかったし
ねこが フードいっぱい食べたし
目が ふっと通じあえたし
あじさいの大きな花が涼しげにゆれていたし
テレビドラマ見ていて ぽろっとなみだこぼれたし
ゴミ出しもできたし
ねこと「り」の字になってひるねもしたし
玉子なしのチャーハンもおいしかったし
きな粉ミルクも
こころの中だけど「ごめんね」っていえたし
ひとつ
なのに よくばりだね
””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
こんな一日があるといいな、と思いました。私のなかに、ないがしろにされた、
たくさんの”いちにち”がこっそり膝を抱えているようで。

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