草野信子詩集『セネガルの布』

草野信子さんの詩集『セネガルの布』から一つ詩を写させていただく。この詩集はその内容にぴったりの実におしゃれな装丁で、手にしても感覚的に心地よい。この表紙の、重ねられた二枚の色のコントラストの陰影のある美しさ、これはセネガルの布を模した色なのかしら?などと勝手に想ったりする…。私も一枚だけ持っているマリ共和国の、大地を思わせる色のテーブルクロスを思い出しながら。
                 
                セネガルの布
             
              なにに使おうかしら 
              と言ったら すかさず
              〈風呂敷です〉と答えたので 笑った
              
              テーブルクロスには 大きすぎて
              でも ハサミをいれたくはない
              藍染の木綿
              
              部屋いっぱいにひろげて
              アフリカの女たちの
              素朴な手仕事のはなしを聞いた
              
              セネガルから帰ってきたひとの土産
              
               
               〈人間であることがいやになったときは
                もの、になって
                部屋の隅にころがっているといい
                これは そのとき
                あなたを包むための、風呂敷〉
              
              夜の湖面をたたむように
              折りたたみながら
              うなずいた
              だから
              こんな夜は
              包まれて眠る
              セネガルの布に、ではなく
              きみの、 そのことばに
                    
                     ※
  詩人と、もうひとりのだれかとの、とてもすてきな心のゆきかいが、手に触れられそうな詩。
  私はこの詩人の、生への洞察力と、繊細な感受性、そして端正な居住まいをもつユーモアに
  心惹かれます。
             
        

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草野信子詩集『セネガルの布』 への4件のフィードバック

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