海の記憶(井上直展)

井上直さんの個展を見にASKへ久しぶりに出かけた。すばらしい展覧会だった。
現代を生きる私たちにとっての、海、空、宇宙、大地とは…。荒涼と寂寞が支配する大地
を流れる静謐な祈りの声。
3・11以前にすでに予見していたかのような、この光景に、言葉を失う。「海の記憶 A,B」
「V字鉄塔のある風景B,C」「処理工場のある夕暮れA,B」などすべて大作。
大谷省吾氏が解説文の冒頭に立原道造の詩を載せている。
      悲哀の中に 私は たたずんで
      ながめている いくつもの風景が
      しずかに みづからをほろぼすのを
      すべてを蔽ふ大きな陽ざしのなかに
     
      私は すでに孤独だ - 私の上に
      はるかに青い空があり 雲がながれる
      しかし おそらく すべての生は死だ
     目のまへに 声もない この風景らは!
     そして 悲哀が ときどき大きくなり
     嗄れた鳥の声に つきあたる
この立原の詩が井上さんの作品と呼び合い、響きあい、世界というこの悲劇的な空間を
贖罪と敬虔な祈りで満たそうとしているようだった。
私は、ひと筆ひと筆を運びつづけた孤独な3年の時を思い、表現者として
の画家の覚悟に触れ直した気がした。井上さんほんとに、ありがとう。
この個展は17日まで京橋ASK画廊で開催中。ぜひ詩人の多くの方々にも見て
ほしいと思う。

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