兎
岬 多可子
夜の飼育小屋で
たくさんの兎がしずかに混じり合っている
声というものがないので
区限ということがない
小麦粉のドウとドウを捏ねてひとつにする
そんなふうな混じり方
そして また
そこからひきちぎられたように
濡れたにぎりこぶしが
夏の赤い穴の中にころがっている
粉のような虫が
小屋の錆びた鍵穴から 大量に湧き出て
どこかへと長い長い列を作る
にじみでていく夜というものが
兎というものの全体なので
生死を数えることはできない
”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
これは岬多可子詩集『静かに、毀れている庭』のなかの作品。ひさしぶりに兎の詩を引用
できて嬉しい。この詩からは「生命」とか,「類」というもののもつ不条理な重さ,哀しさを感じる。
3連の(夏の赤い穴)とはなんなのか、(ひきちぎられたようにころがっている…濡れたにぎりこぶし)
とはなんなのか。生き続けていく生命の奥底にひそむ不気味な営為やエロスを感じる。詩で
なければ表現できないある感覚だと思う。とくに最後の連が印象的だ。
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