雨の日曜日、高田馬場まで、「松井やより全仕事」展を見に行った。当日は、松井やよりさんと生前親しかった高橋茅香子さんの詳しい解説やお話があったのもよかった。
松井さんは2002年の12月末にがんで亡くなられたのだが、がんの発見から死までのわずか2ヶ月半の間に、どのように後進の方々に自らの仕事を引き渡していったか、また彼女の志であった「女たちの戦争と平和資料館」建設への夢を引き継いでいったか、その経過と、彼女の壮絶な病との闘いなどを如実にヴィデオによって見ることができた。それはなかなか言葉にはできない感動を残してくれた。
館に集められた資料や、生前の彼女の仕事の足跡、記事、著書のすべて、さらに子ども時代の写真や絵、山手教会の牧師さんであったご両親の写真、同志であった富山妙子さんの絵の展示もあり、丹念な充実した展示ぶりだった。そこには女性たちの強い共感と連帯の成果があった。
「若い記者たちへー松井やよりの遺言」という,有志記者の会篇の本に(アジアの人々を訪ね歩き、貧困、性差別、戦争犯罪、少数民族、環境問題を追い続けたひとりの女性記者の壮絶な人生)と書かれている。ほとんど私と同時代に、朝日新聞社の草分け的女性記者として出発し、この男社会の本流のなかを、「世の中を変えたい」という若い日の気持ちをもって泳ぎぬき、発言し続け、志半ばで倒れた一人の女性がいた。その果敢な生き方の映像を見ることは、時代の酷薄さを再認識させられると同時に、人はこのようにもすばらしい生き方ができる存在だったと励まされるものだった。
松井さんの言葉に「私が最後に言いたいのは、人間は何のために生きているのかということを考えるときに、出世するとか、しないとか、そんなことはどうでもいいことですよね。……人生は、何のために生きているかってことを考えながら取材するときには、非常に細かいことに気を遣う必要はないんじゃないか、勇気をもってできるんじゃないかなと思います」というのがあって、彼女の繊細な感受性と生きる力を自ら奮い立たせるための勇気が伝わってくる。
「松井やより全仕事展」は4月23日まで高田馬場の「女たちの戦争と平和資料館」(wam)で開かれています。TEL 03−3202−4634
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