Gallery元町で田代幸正さんの銅版画展をみる。田代さんの「野兎」という銅版画を私は一枚だけ持っている。
それはもう何年か前に出会って,ふしぎに心ひかれた作品だった。彼の絵には既視感と、ある懐かしさがあって、その背後に秘められた物語性を感じる。人が生きてそこで静かに呼吸している空間みたいなものが、私を誘う。その版画も、ひとりの少年が兎を抱いてこちらを見ている…ただそれだけなのだが。
それからもう一枚、傘をさした少年が大きな犬を連れて雨の中をあるいている小品。これはプレゼントされたもの。地に落ちて跳ね返る雨の感触、あたたかな動物の手触り…。
私は兎を抱く少年にひそかに名をつけていて、いつか物語のなかを歩かせてみたいなあ…と思っている。
ギャラリー元町は彼の絵を見るのにふさわしいスペースだった。彼はそのセピア色の光の底で、グレン・グールドのCDをかけ、鉱物やアンモナイトのことを話した。残暑の窓から入る斜めの光も、空間を涼しく異質なものに感じさせる。そういう時間はとてもすてきだ。
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