民芸公演『はちどりはうたっている』を観る

前作『遥かなる虹へ』で総合商社で働く女性たちのひたむきな姿を描いた新進気鋭の松田伸子の最新作、演出は渾大防一枝。今回は航空機産業を巡る話で、遠い世界のように感じたが、それは今日の世界を動かすカギでもあり、私たちの生活ともかかわりのあることなのだと考えさせられる脚本であった。
出演者もベテランの梅野康靖、水谷貞雄のほかは若手が活躍していて、若い熱気が感じられた。
舞台はカリフォルニア州サンノゼ。時は、現代あるいはごく近い未来、というのもこれは虚構として書かれたからであろう。そこで航空機を輸出入する大会社の支店に働くエリート商社マンと日本から訪れてきた婚約者(彼女も有能なキャリアウーマンだが、正社員にまだなれないでいる)を中心に展開する。
筋は長くなるので省略するが、劇作家が十分に取材をし調べ尽くして書いたものだといい、軍事産業がいかに戦争と結びついているかを教えられる。
その航空機会社の空中給油・輸送機が行方不明になっているという情報があり、しかもそれはドアの強度に問題があったのではというのであるが、実はそれを日本の民間航空会社に売り込もうという最中であり、原因がまだはっきりとはしない時点で、明らかにはされたくない。そこで上からの圧力がかかっているという状況である。これらは今安全問題などで取りざたされている今日の会社組織とも共通するものだろう。
しかし有能な商社マンである前に有能な技師でもあった主人公は、それを明らかにすべきだと思っている。そして自宅には、久しぶりに休暇をとり会いに来た婚約者が来ているというのに、正体不明の日本語も中国語も片言で話す正体不明のマレーシア人(梅野泰靖)を連れてくるのである。
アメリカの現代、近い未来ということなので、ここには9・11から後のアメリカの変化の状況が描かれる。「愛国者法」があり、「テロ防止法」が出来、言論行動の締め付けが厳しくなり、戦争反対というだけでも当局ににらまれ、職場も危うくなる。また政府の失態続きで格差もひどくなっていて、それゆえニューヨークでは、「八賢人」を中心にして大々的なパレードが行われようとしているという設定である。
種を明かせばその正体不明のマレーシア人(実は日本軍から両親を殺された中国人)、ハルと名乗る人物(また実はだが、ヒタム・クチンという詩人である)も指名手配されているその一人で、彼を匿ったのである。彼は杜甫やガルシア・マルケスを口にする。すなわち八賢人のメッセージの中心には詩人がいて詩がある。
この18日に横浜でも「輝け9条! 詩人のつどい」というのがあるが、これから何かが生じたときアメリカのようにパレードの中心に果たしてなれるだろうか、などと思った。
結局、いろいろな事があった後、婚約者もその(危険であるかもしれない)平和パレードに出かけるということで終わる。
この中の台詞で「なぜ戦争する? ベラボウ儲かる」という言葉が心に残る。今では明白なことだろうが忘れてはならないだろう。戦争といって悲惨な映像ばかりだ映しだされるが、役者が一人足りないのだと、それを受けた主人公は言う。
「愛国者たちが熱狂する演説・・・その足元でむせ返るほどの金が、一握りの、いつも同じグループに流れ込んでいく。・・・・・この戦争でいくら儲かるか、やつらは安全な高みから、血みどろの地獄絵を見下ろして、そして金を吸い上げていく。・・それがほんとうの戦争の姿なのに・・」
はちどりはハミングバード、南米の民話「ハチドリのひとしずく」のような一票でも集れば大きな力になるということから来たらしい。

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