黄色い毛虫を飼う

<毛虫の飼育日誌>
7月7日朝、カエデの葉に一匹の毛虫を見つける。
このカエデは最初から紅色をした葉をしているので、そこに黄色の毛虫を発見した時、その美しさが目に付いた。長さ3センチほどだがその毛は細くて黄金に近い感じなので、つい枝を折って家に持ち込んでしまった。
少しも動かないので死んでしまったかと思ってそのままにしていたのだったが、翌日見ると、姿が見えないので慌てた。黄金の毛だけが、なぜか脱ぎ捨てたように置かれていたので、脱皮したのか?など思うと同時にその毛が繊細で美しいので、これは羽衣だ・・・などとつい美化してしまったりした。綺麗な蝶になるのかも・・・と。
あちこち探しまわり、もしかして何かで潰してしまったのではないか可哀そうなことしたと思っていると なーんだ、近くを這っていたのだった。生きていることを確認し、そうすると飼ってみようという気になり一輪挿しのカエデの葉に戻し、この日からスチールの洗い篭で一番大型のをその上にかぶせて観察することにしたのだった。
それからは毎日新鮮な葉を入れてやったが、昼間は死んだように動かない。しかし朝にはたしかに葉は食べられでいて、その色と同じ色の糞が散らばっている。夜、食べるところも観察したが、まさに蚕のような口で咀嚼していく。糞は乾いてコロコロしていて汚い感じではない。前に青虫を同じように育てたことがあるので、この後蛹になるのだと思いながら毎日眺めていた。
ところがこの話をある人にしたところ、そういう派手な毛虫は毒蛾になるのだといわれてがっかりした。
殺した方がいいのだろうか、また殺すべきなのだろうか・・・。しかし毎日葉を新しくして眺めて来たので情のようなものがわき、殺せないのだった。しかし少々疎ましい感情が出てきたのは確かである。
悪魔の子を孕まされるという筋の映画があったのを思い出す。腹の子が悪魔だと知ってもそれを殺せず(そういう人間の母性を悪魔は利用したのである)その醜悪でおぞましい赤子が産まれて来たときも、本能のように乳房を含ませようとする場面があった。そのように私も毒蛾を育てることになるのか・・・・
どうなるのだろうと怖さもそれからは感じながらそのまま育てているうち、丁度10日目の17日、朝見ると繭が出来ていた。スチール篭の側面に自分の長くて黄色い毛を使って薄い4センチほどの繭をつくり、更にそに中に身の丈ほどの繭を少し濃い目に作っていた。すなわち二重の繭の中に入ってしまっていた。
最初も自分の毛を脱ぎ捨てたように見えたが、そんな自分の毛を使って繭を作るとは・・・と器用さに感心する。それもなかなか綺麗である。
何時羽化するか・・・それが少々気がかりだった。毒蛾が出現したらどうしよう?
恐る恐る毎朝それを点検する日がつづいた。中はだんだん蛹色が濃くなっている感じ、頭部が出来つつある感じ、微動だにもしないのに内部では劇的変化をしているにちがいないことに不思議な思いを抱く。そして一昨日28日の朝、見てみると繭の上に一匹の蛾がいた。
それは止まって動かない。生まれたとたんミイラになったのかもと思われるほどであった。
夕方になってもそのままだある。てっきり死んだのだと思ったが、夜露に当てるべきだと言われ、庭の草むらに夜中そのまま篭を伏せて置くことにしたのだった。
さて、その蛾の姿と言えば、全体が生成りの布のような白っぽい色をして体長3.5センチほど、羽は少し細長く止まっているときは蝉のようにつぼめた感じ。白い羽には薄く細い焦げ茶の筋が横じまとなって2本。昼間は全く動かないので、(夜どんな風にしているかほとんど分らない)危険な毒蛾とは思えずちょっと安心した。
そこでこの蛾の正体についてですが、私の蝶類図鑑には出ていないので、図書館に調べに行きました。そこでピタリと分ったわけではなく大体の感じからですが、どうもヒトリガの一種であるようです。ドクガというのではなさそうで、またその害は毒針によるらしいので、毛虫の毛に触らなければ大丈夫のようです。昼間は蛾になった今でも全く動かず、羽を触ってもビクともしません。手さわりはいいのです。
しかしかつて問題になった、アメリカシロヒトリもこの仲間なので、これも蔓延ると庭木を食い荒らす害をなし、退治するのに大変だと言われたこともあって、自分の手で殺すのは忍びがたいので今夜にでも少し遠くに放してやりに行くか(カミツキガメではないので、一匹ぐらい害にはならないだろう)・・・・などと思っているところです。それにしてもデジカメもケイタイも持っていないし、ここに取り込むことも出来ないので、こんな時言葉だけの説明ではどうにもなりませんね。
ほぼ20日間の飼育記録でした。

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