昨日の5月1日、蒲田にある会場アプリコ(大田区民会館ホール)に行く。
爽やかに晴れた新緑の一日、昨年と同じように一部が日本の合唱曲で、高田三郎没後10年メモリアルプログラムとしての合唱組曲「みずのいのち」(弦楽合奏とピアノ)、2部はこの合唱団がメインとしているレクイエム。今回はフォーレ(ニ短調作品48)であった。
残念なことにいつもの指揮者、小松一彦氏は体調を崩されたため荒谷俊治氏に変更。一日も早いご快復をお祈りします。
パンフによると、この荒谷さんは指揮を石丸寛氏、作曲を高田三郎氏に師事とあったので、今回も深い縁があってのことだろう。
昨年は世界的にも活躍で著名だった音楽家貴志康一の合唱曲を教えられたが、今回も初演(昭和39年)以来人気の高いというこの組曲を、楽しませてもらうことが出来た。
「みずのいのち」は、雨、水たまり、川、海、海よ、という題でそれぞれ水の相を人の姿や命の本質をも絡めながら描き歌い上げた5曲の組曲。作詞家の名前を見てああ、と思った。高野喜久雄ではないか!「荒地」の詩人で、物事の本質を、物自体の本然を究めようとする真摯な詩人である。私もその詩集を現代詩文庫だが持っている。帰ってからその経歴を一覧してみると、確かに高田三郎との出会いによって幾つかの合唱曲を手がけているようであり、また讃美歌や典礼聖歌などのあるという。演奏と歌声でその水の姿が生き生きとイメージされる。合唱団の女子は黒のドレスに水色のヴェールをまとい、ピアニストも水色のコスチュームだった。
その一つをここにも書き出してみよう。
2曲目 水たまり
わだちの くぼみ
そこの ここの くぼみにたまる 水たまり
流れるすべも めあてもなくて
ただ だまって たまるほかはない
どこにでもある 水たまり
やがて消え失せていく 水たまり
わたしたちに肖ている 水たまり
わたしたちの深さ それは泥の深さ
わたしたちの 言葉 それは泥の言葉
泥のちぎり 泥のうなずき 泥のまどい
だが わたしたちにも
いのちはないか
空に向う いのちはないか
あの水たまりの にごった水が
空を うつそうとする ささやかな
けれどもいちずな いのちはないか
うつした空の 青さのように
澄もうと苦しむ 小さなこころ
うつした空の 高さのままに
在ろう と苦しむ 小さなこころ
休憩を挟んでの第二部は、フォーレのレクイエム。3大レクイエムの一つとされるこの曲の特徴は、あくまでも静かで透明である。儀式のためではなかったらしく、また「怒りの日」の部分がない事から批判もされたというが、フォーレ自身「死とは永遠の至福の喜びに満ちた開放感である」と述べているように、これは死を恐れる人のための子守唄だという。晩年の作であるこれは、彼自身のたどり着いた信仰の境地だったようだと、聞いたことがある。
この曲の時は、空色のヴェールは白に替わっていた
外は光と命のあふれる5月、いずれも穏やかで静謐、内省的な曲の響きに包まれた会場であった。
終演後、陽射しがふんだんに差し込む階下のロビーでは、舞台の上にいた人とそれを楽しんでいた人たちとの自由な語らいがあちこちに見られたのも、今回はいつもと様子が少し違っていた。皆さん、お疲れ様でした、そしてありがとう!
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