今年の一字漢字は、「変」だという。
変化、変動の年と言うことだが、年末にかけて景気も社会的現象も厳しさを増し、暗澹たる気持ちになる。事柄の変化は、徐々に進んでいた時には気がつかず、見過ごしていたものが、ある時急に大きな形で現れてくる。臨界点というのか、ある温度に達すると水が急に氷に、また水蒸気になるように。
今年はそういう年だったのかもしれない、などと思う。
例年のように三越劇場で行なわれる民藝の今年最後の公演『海霧』を観に行った。
原作は、原田康子。ある年齢以上の人は、「挽歌」のベストセラーを書いた人として記憶に残っているだろう。その後も地元の札幌在住、北海道に根を張った作家活動をしておられるのだが、あまりにも有名になりすぎて、伝説のようになってしまったようだ。50年前だとのことで、改めて時の速さを感じる。
この作品は、北海道を舞台に作家一家の年代記を主軸にして、開拓と近代化されてい日本の姿をも絡ませた一大叙事詩で、3巻からなる長編を劇化したものである。
これを2時間半あまりで演じようというわけだから、大変である。しかしスピード感のある舞台転換と人物造形の切り込みの上手さ、テンポのよさで、少々骨太だがその流れはよく辿れ面白かった。
脚本は、小池倫代。演出は、丹野郁弓。
物語は、プロローグの明治8年からエピローグの昭和4年までの長期に渡る、作者の血族3代の年代記である。中心になるのは開拓者として夫とともにやってきた祖母さよ(樫山文枝)で、一代で財を築きいた夫(伊藤孝雄)とその娘の長女リツ(中地美佐子)と次女ルイ(桜井明美)、そして最後にリツの娘千鶴(中地の二役)、この女系の3代とそれぞれの夫(みやざこ夏穂・斉藤尊史)、それに信頼にたるアイヌの、主人の補佐役となるモンヌカル夫婦なども含めて、家庭内の歴史と一家の盛衰を見守り続けるのである。
和人があたかもアメリカ大陸を開拓していく歴史にどこか通じるところのある日本の北海道開拓の歴史、それは果敢な男たちの陰にある女たちによって支えられていたのだと感じられる女三代の物語であったが、長女リツが男言葉を使い、男のように振る舞い、男のように勇敢で真っ直ぐな性格で早く死んでしまうそれは、家督制度などの時代の悲劇でもありまた滑稽でもあり、それらの流れに時代もまた感じられるドラマであった。
今朝の新聞の「声」欄に、「アイヌを学び、自然を守りたい」という若い人からの投書があり、「北海道では北方領土返還を求める看板を眼にしますが、本来はアイヌに返される土地だと考える人は少ないでしょう」とあって、和人の侵略は自然破壊そのもので、アイヌとともに生きる神を殺すものだったととらえ、北海道に住むものとしての最低限の義務は、彼らの歴史と精神を学び、彼らが守りともに暮らしてきた「自然=カムイ」を自分も守り生きていくことだと思う、という頼もしい文章を読んで嬉しくなった。
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