紋別郡の小さな村のコテージに毎年春から秋にかけて滞在しているTさんの誘いに乗り、一週間ほど北海道を味わってきました。
近くのホテルに素泊まりで宿をとり、ほとんどご夫妻の世話になりつつ、5年間の経験を活かした車による案内で、あちこちの温泉と道中の紅葉、有名な美瑛に劣らぬ草原・牧場風景など、また豊かな村の自然の恵みの新鮮さ美味しさをも存分に味わい楽しませてもらいました。地形的にもオホーツク海と日本海の両方を見ることさえ出来たのでした。
この小さな部落は、山脈の北はずれの起伏の多い山々に囲まれた山岳地帯、二つの川に挟まれた林業と農業で成り立っていた村です。最近は豊富な自然、温泉を活かした近代的なコミュニティー施設も完備し、「夢」と「小さくても輝くむら」をモットーにしているとのことで、Tさんの農園つきコテージや泊まったホテルもその一つであるようです。
北海道に行くのは初めての私。札幌も小樽も行ったことがなく、はじめての体験がこの村だというのは珍しいとTさんは言いながらも、それはいいことだ、なぜならこの地方にこそ、まだほんとうの北海道が残っていてそれが味わえる・・・とも。まことにそうだと思える毎日で、Tご夫妻のお蔭ながらまだ北海道の風景が心の中で揺れていて、夢見心地でいます。
書けば長くなりますから、簡単に二つだけ北海道の印象を書くことにします。
先ず誰も感じることでしょうが、雄大でたっぷりした自然の中に車が稀で、人も少ないということ。その例の一つ、飛行場に迎えに来てくれたTさんの車に乗って村までほぼ1時間の間に対向車は一台もなく、村近くになってやっと2台に会いました。人も少なく時たま歩いている人を見ると、どこに行くのだろうと不思議に思えるほど。むしろ動物や鳥に、牛や馬は牧場には当然ですが(晩秋ですから数は少ない)、やはり感動したのは、キタキツネに会ったこと。鹿にも会いましたが、熊には幸か不幸か会えませんでした。
次に紅葉が素晴らしかったこと。暖冬のせいらしくまだ紅葉は残っていて、というより盛りを継続していて、どこに行っても紅葉、紅葉の日々を送りました。その紅葉も京友禅のようなものとはまた違う、西欧風景画にあるような白樺やダケカンバなど高木で濃淡のある黄葉を主体とした森や林がとこまでも続くといった感じで、そのなかにもナナカマドやカエデの紅、常緑樹の緑、まだ緑色をした牧草地が得もいわれぬ彩を奏でている所などもあり、大げさかもしれませんが一生涯の紅葉を見た感じになりました。それはやはり北海道の広さ故であり、そのなかを車で移動し続けたからかもしれません。
温泉も石油の匂いのする、しかしアトピーなどには効き目があるという最北端にある昔からの鄙びた温泉、またお砂糖を持っていって入れて飲むとサイダーになるというほどの胃腸に良い炭酸の強い温泉、近代的設備の整っている一日楽しめる温泉など連れて行ってもらいましたが、この辺はいたるところに温泉があり、この辺に住む豊かさを感じ羨ましく思います。
なおこの地に古きよき北海道が残っているというのも、一つには道内でも過疎地であることを示しているのでしょうか。廃屋もあちこちにあります。
宗谷本線と平行して走っていた天北線が1989年に廃線となり、その駅の跡、歴史資料館なども幾つか残されていましたが、それを見ながら、また古い建物を案内されながら(T夫妻は古いものがお好きなのです)北海道の成り立ちや歴史についてもあらためて考えさせられました。
T夫妻と私は長年の知人でも友人でもありません。ただお二人はどちらも私の相棒であったKの友人で、特にT氏は同僚の先輩として敬愛の気持をずっと持っていてくださり、二人は互いに性格が対照的な面もあって良いコンビとして公私ともに親しくしていたその気持の表現として、死後17年も経った今日のこの接待でもあったわけで、滞在ちゅう常に中心にあったのはその亡くなったKの存在でした。
例年ならばもう末枯れているはずの紅葉が盛りを保ってくれたのも、また滞在中は晴れ続きで予報で雨だといった日も晴れ上がり、発つ日に初めて雨になった幸運ももしかしたら亡き人の采配かもしれないと思いつつ、T夫妻への感謝の気持を抱きながら機中の人となったのでした。
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