6月25日の新聞に「ホタルの放流やめて」の記事があった。最近、蛍に人気がでて、あちこちで飼育や放流をするようになったが、別の場所で捕らえて放流すると、遺伝子汚染が起き(地域によって異なるという)、習性も違う事から生態系を乱す恐れがあると、研究者たちが声を上げているという。
しかしここの蛍は、生粋の地元生まれである。案内者のKさんも、それらのことに深く憂えている一人である。そのKさんに連れられて、先の土曜日の夜、蛍を見に行った。街灯などからは遠く離れた真っ暗な谷戸であるから、一人ではとうてい怖くて入れない。総勢20人足らず、幼い子どもも2人参加した。
昨年は7月9日であったから、今年は少し早い。もうたくさん出ているという。
昨年は小雨の中だったが、今年は梅雨が明けたような夏空で、半月がくっきりと空にあり、まさに月影といわれる木々の影が足元にみられた。月の光がいかに明るいかを実感しながらも、亭々とそびえる木の下闇の道はおぼつかない。
入る前にいつものように心得を聞く。足元を照らす懐中電灯はやむを得ないにしても、決して宙を照らしたり、いわんや蛍などに決して向けてはならない。直接当てると目がくらんでしまうからだ。また蛍は体が柔らかいから決してつまんではいけない。衣服や腕になど止まったときは、そっと手のひらに移して移動させる事など・・・。またどうしても近くにいる蛍を観察したかったら、電灯のレンズの先に赤いセロファンをかぶせて光を弱めてでなければいけない。
やっと暗くなり始めた7時過ぎから歩き出し、谷戸にはいるときに手を合わせる。「入らせてもらいます」と、そして「事故が無いように」と。Kさんに倣って皆そうする。
体調の悪い人はいませんか、とKさん。また霊感が強い人もちょっと恐いですよ、今日はずっと池の奥まで行きますから・・と。足の裏の土のでこぼこをしっかりと意識しながら、盲目の人が歩く感じになりながら前の人に遅れないように従いていく。
今年はとてもたくさん蛍が飛びました。
光の強い(体も大きい)源氏蛍ばかりで、平家は遅れているという(去年は同時に見られた)。200匹ぐらいは光っているでしょうと。あちらでもこちらでも、光の明滅があり、それが左右に上下(10メートルぐらいは上がる)に移動するのは、雌へのアッピール、またはそこへと近づこうとしているのか、この光の饗宴も9時になるともう収まるとの事。夜に入っての一時間が、彼らの生死をかけた婚姻の勝負なのです。飼育すれば一週間くらいは生きるかもしれないが、普通は2,3日で死んでしまうのだそうです。そういう真剣な営みの場に、ニンゲンが入り込んでいるのですから、出来るだけ邪魔をしないのが礼儀でしょう。
実は200匹は、少し多すぎるということです。ここでは100匹ぐらいが適当で、多ければよいということではないとのこと。必ず反動があるし、また環境の変化を物語るものかもしれない。特に最近は蛍の養殖業者も出てきて、餌になるカワニナの代わりに、オーストラリアからそれより大型の貝を輸入して育てるという方法も行われていて、それを川に捨てるとそれが繁殖してカワニナを駆逐するという現象も出ているとか。すなわち生態系が狂ってくる。多少の上下はあってもその地に合った常態であることが望ましいのです。
一時間あまり、前日の雨でぬかるんでいるところもあったりで足元を気にしつつ、緊張しつつ感嘆しつつ暗い森をさまよった後、出てくると彼方の里の灯が懐かしく感じられた。
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