9日(土)は、「台峯を歩く会」の今年二回目の蛍を見る会でした。これまで一度も参加したことがなかったので、今年こそはと思っていたのでした。雨天の場合は中止。でもこの日は梅雨雲に覆われてはいましたが、雨は時々ぱらつく程度、決行ということになりました。
いつもの出口に当たるところに6時集合。そこから谷戸に入り、蛍の発生しそうな水辺をゆっくり散策しながら眺めようというもの。6月下旬の前回はやはり雨もよい、蛍はまあまあだったという。
一昨年はたくさん出たが昨年は少なかったそうだ。参加者は子どもも入れて17,8人ぐらい、20人以内に抑えている。
皆が集まるのを待つ間、ホトトギスが鳴き、暮れはじめてくるとヒグラシが鳴きだした。
ああ! 今年初めて聞く声! と私は思い、誰もがそうだと頷く。家の近くではもう少し遅く、梅雨明けの頃である。この声を夕暮れに聞くと、ああ いよいよ本格的な夏だなあと思い、なぜか心の底に寂しさがにじんでくる。
6時半、いよいよ谷戸に入ろうという頃からポツポツ雨が降り始めた。しかし木立の間なので傘をさす必要はない。ただ雨だと蛍は飛ばないだろうと恐れるのであった。水辺に半化粧の花が咲き、葉も白く夜目にも浮き上がっている。この花がこれだけになるのにも10年かかった、と案内者のKさんが言った。今年は一体に花の時期が遅れ、これもそうだというが、見られた私たちには運がよかったことになる。
前回よく飛んだという最初の水辺、それから又歩いて次の水辺。ここでせっかく来たのだから少しお勉強しましょうと言われ、先ず、3つの注意、(1)蛍を抓まない事。(2)蛍に懐中電灯の光を当てない事。(3)煙草を吸わない事。次に、その生態について簡単に教えられる。
ここの蛍は、正真正銘ここ生まれの、ここ育ちである。養殖したり、他所から幼虫や蛹などを連れてきたりしたものではないということ。だからそれだけ自然環境に微妙に左右されるのである。
光る蛍が見られるというのは、繁殖期ということだが、ここで交尾した蛍が卵を産むのは、水辺の枯れ木などの生えたミズゴケだという。だからそういう類のものが水中になければならない。それらが見苦しいからと取り払ったりすると(役所や管理会社に任せると、ともするとそんな考えをする)産卵場所を失うことになります。さて孵化した幼虫はずっとこのジュクジュクした湿地で暮らします。それから岸辺の柔らかい土に潜り込んで蛹になるのだという。固い土では潜り込めない。だから多くの人で土手が踏み固められたり、木道を作ったり、コンクリートで補強されたりすると全滅である。今私たちも、きっと何匹かの蛹を踏み潰しているでしょうとKさんは言う。それが羽化して、今日のこのときを迎えるのである。
7時になった。もう一つ奥のポイントがあるが、今日はここで待って見ましょうと、亭々とそびえるハンノキが立ち並ぶ開けたところに私たちは佇んで待っていた。雨は降っているが、広がる木々の枝が大きな傘となってあまり感じられない。雨宿りする感じである。何かが飛び込む水の音。ウシガエルの声も聞こえてきた。そのとき、ア、光った!と誰かが叫んだ。どこどこ?と言っている内に、私にも見えてきた。はじめはほんのチラホラと、水滴がキラリと光るような小さな煌きが闇の中に見えた。それからあちこちで光り始め、最初は少しも飛ばないようだったが、次第にそれらが飛び始め、だんだん高く低く、こちらに向かっても飛んでくるようになって、あたかも暗黒の舞台上での蛍の舞踏を眺めている感じになりながら静かに興奮した。
今ここにいるのはヘイケボタルとのこと。ゲンジボタルの方が少し時期が早い。光はゲンジの方が強く、ヘイケは弱い。しかしこの日、ゲンジと思われるものも何頭(ホタルは匹ではなく、頭で数える)かいた。やはり少し季節は遅れているのだそうだ。だが私たちは両方が見られて、幸運である。
大体一時間ぐらいで光の饗宴は終わるという。30分ほどそこにいて私たちは又歩き出した。最初の水辺に来た時、幼い女の子が蛍を捕まえたという。柔らかい掌に飛び込んだらしい。その柔らかい掌で飛び立ちもせず光っている。では、ちょっと我慢してもらってと、Kさんが懐中電灯をそっと当てて皆に姿を見せてくれた。平たい西瓜の種を少しふくらませた位の大きさと色。ヘイケはゲンジの3分の2の体長。
それから私たちは各自蛍のように光で足元を照らしながら列を作って入口にまで引き返した。行く手に見える民家の灯火が、くぐもった中にぼんやりと幻想的に浮かび上がってくる。まるで別天地に行ったようなひと時であった。命の神秘とその美に感謝しつつ、来年もまた蛍と出会えますように、互いの出会いもまた期待しながら8時半過ぎに解散する。雨は上がっていた。
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