昨日、長々と書きすぎて読書会まで書けなかったが、それが幸いであった。
今日の朝日の夕刊の文化欄に「文化の同等性希求の時」のタイトルで、39年ぶりに来日したル・クレジオ氏の様子が大きく取り上げているからである。
実は、邦訳としては最新刊の、自伝的な要素の濃い「はじまりの時」(上下2巻)を、読者会のメンバーの一人村野さんが出版されたので、それを今回は取り上げて読んだのであった。
読書会については、水野さんがブログに書かれると思うので、その新聞記事と村野さんの訳書について簡単に紹介しようと思う。
ル・クレジオは、一時期日本でもフランスのヌーボーロマンの旗手のような感じでもてはやされたことがある。しかしそういうイメージとはまったく異なる姿でここに再登場してきたといっていいだろう。現代文明の欧米中心の文化から外れた、インディオの文化に深く関わり、そこでの体験から生みだされた著作も多く、日本で言えばアイヌや奄美大島など辺境の、マージナルな文化の豊かさがこれに当る。そういう方向付けを持つシンポジウムに招かれようで、これは氏の出自にもよるが、その文学は国境時空を超えたこれからの文化の在り方を示唆するものでもあるといえよう。
その来日は地味なものだったらしく、村野さんがそのことを聞いたのはシンポジウム間際であったそうで、しかし本人にも会え、言葉も交わし、質問もさせてもらい、いい励ましの言葉ももらい、まさに彼女にとって「はじまりの時」となったようで、その場の様子を聞いた読書会のメンバーは皆喜びと祝福の声を上げた。
上下2巻と読むのは少々大変だが、とても読みやすく、惹きこまれる。よくもこれだけ大部なものを(歴史的なもの、地理的にも広範囲)よく訳したものと、感心し感嘆する。若いエネルギーがなければ出来ない仕事である。ル・クレジオの文学を理解するにはこれを読まないでは通れないであろう。
題は直訳すれば「革命=回転」であるが、何とか別のものにしたくて、「はじまりの時」という訳語を考えるのに苦労したという。その良否はいろいろ意見はあるだろうが、それはもう訳者の権利であり、自己責任である。そのような象徴的な訳をつけた時から、彼女の運命もまた開けてきたような感じもするのである。
関心のある方は、どうかお読みになってください。
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